美人白書

Vol.27 RIE OMOTO


Nov 26th, 2014

photo_yuya wada
text_noriko oba
edit_rhino inc.

現在ニューヨークを拠点に数多くのモード誌でメイクを手がけ、世界を舞台に活躍するメイクアップアーティスト、RIE OMOTOさん。日々“顔”と向き合っているRIEさんから飛び出す、“美”への言葉の数々は目から鱗の連続。果たして、RIEさんの考える“美しい人”そして“美しい暮らし”とは。

女性を輝かせる達人、RIEさんの美の秘訣

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2日間のセミナーで人生が一変

――RIEさんがメイクアップアーティストになろうと思ったきっかけは何ですか?

もともとメイクをすること自体は好きだったのですが、“メイクアップアーティスト”という職業があること自体知りませんでした。19歳でロンドンに行ったときに、『i-D』というファッションカルチャー誌に出合ったことがきっかけです。そのなかに載っていたメイクアップがすごく素敵だったんです。

というのも、当時80年代後半のころの日本は、ヘアだけがひとり歩きをしているような印象だったんですよね。髪型はド派手、だけどメイクはいつも変わらない…みたいな。ファッションや髪型が変わっても“顔がいつも同じ”というのは、違和感があるし、おしゃれじゃないと感じていました。

――その違和感が吹き飛ぶような雑誌に出合ったんですね。

『i-D』のクレジットを見ると、モデルやスタイリストと並んで、メイクアップとしてスタッフの名前が載っていたのを見て「こんな職業があるんだ。私もなりたい!」と。私が初めてメイクアップという職業を知り、憧れたのは、ロンドンで『i-D』を見たときからです。

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――そして、故郷でサロンをオープン。当時まだ20代前半という若さですよね。

はい。一度岡山に帰って、岡山でパートナーと美容室をオープンし、並行してメイクの学校にも通っていたのですが、どうも退屈でして…(笑)。行程を教えてもらうだけじゃ勉強にならないと、生意気ながら感じていましたね。自分のサロンには、スパやメイクアップ用の個室を用意して、ヘアだけじゃなくてトータルできれいになれるような空間をつくりたいと思っていました。が、そんなある日、美容室に来ていた業者さんと世間話をしていたところ…。

――突然フランスに行ってしまうんですよね。

はい(笑)。当時フランスで活躍していた世界的なメイクアップアーティスト、リンダ・カンテロがパリでセミナーを開催するらしいと教えてもらいまして。お金もすごくかかるので、諦めようかとも思ったのですが、何度考えても「どうしても行きたい!」と、フランスに飛びました。

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パリに着いた翌日に、ミラノコレクションへ!

――ツアーに参加してみどうでしたか?

2日間のツアーだったのですが、最終日には実演もあって、自分が行ったメイクを彼女に見てもらえるんです。確かそのときのテーマは“future”。未来のメイクを考えるというものでした。私は、モデルの肌を真っ白に塗って、眉毛も消して、凹凸も極力なくした顔のうえに、目だけに強い印象をもたせるようなメイクを行いました。アイラインがキューッと上がっていて、人間というよりは、猫のようなメイク。

それを見たリンダが、「パリで仕事がしたいならおいで」と声をかけてくれたんです。あまりにうれしくて反射的に「イエス!」と言っていました。考えるより先に感情が反応したという感じです。「絶対戻ってくるから待っていて」とリンダに話し、岡山へ。

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――岡山の美容室は…?

それが理解あるパートナーでね(笑)。帰国して、成り行きを話したところ、ものすごく驚かれましたけれど、最終的には分かってくれて、岡山の美容室は自分に任せて、と応援して送り出してくれました。

――本当にパリへ行くのですね。

パリに着いた翌日「明日ミラノでショーがあるから現地集合」と(笑)。何ごとかと思えば、ミラノコレクションで “GUCCI” のトム・フォードのショーだったんです。昨日まで雑誌で見ていた、ナオミ・キャンベルやケイト・モスが目の前にいるんですよね。イタリア語は分からないわ、状況も読めず混乱するわで大変でしたが、「できないとは言えない」と必死でメイクしました。

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――パリではどんな毎日だったのでしょうか?

毎日がすごくおもしろくて、反面めちゃくちゃ大変で、そして信じられないくらい貧乏でした(笑)。家での食事は安いオリーブオイルにお醤油を少し垂らしたパスタばっかり。仕事で食べられるランチは、夜ごはん分まで食べようとしていたので、あまりの量にスタッフみんなが驚いていたくらい。少しふっくらしていたリンダは、「なんでRIEはこんなに食べているのに太らないの!」と首をかしげていました。

フランス語は1から覚えなくてはならなかったのですが、少し意地悪な人もいて…。通じているはずなのに「ハン」なんて言って分からないフリをされたり。あまりにも悔しかったので、ここでは言えないようケンカ言葉から覚えました(笑)。

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大丈夫。メイクは失敗してもクレンジングで消えるから

――その後、パリからニューヨークへ移り、独立します。ニューヨークはどのように感じましたか?

改めて「ものすごく大きな街に来てしまった」と思いましたね。ヨーロッパの町並みとは全然違って、直線の大きなビルが立ち並んでいて、歩いている自分があまりに小さく、飲み込まれそうな感じ。人の雰囲気も違って、パリの少し閉鎖的なコミュニティと比べると、ニューヨークは知らない人にも両手を広げて迎えてくれているような印象を受けました。

――仕事の仕方も違いますか?

全然違いますね。パリでは、何回も打ち合わせをして1から10まで決めていても、予定通りに終わることはほとんどありません。万が一、予定通りに終わりそうになったら、「こんなにスムーズにいくなんて……ありえないぞ」と何かしら問題を探し出す始末。いや全然おかしくないんだけど!(笑)って何度も心で突っ込んでました。「何かもっとできることがあるんじゃないか」「やっぱりあの部分はやり直した方がいいんじゃないか」と、完成にいたるまでの掘り下げ方はすさまじいです。

そのおかげでよりいいものが出来ることもありますが、たまに「やっぱり最初に戻そうか」となると、“もう!時間泥棒!”って思いますよ(笑)。対してニューヨークは、時間通りに終わらせることができたら、「YES!」「OK!」とハイタッチで喜んじゃう感じ。全員がプロの仕事をした結果として、予定通りにいったね!と。なので、どこの国のスタッフと仕事をするかによって、仕事後のプライベートの予定を入れるか入れないかも考えます。フランス人スタッフの日は覚悟して、プライベートの予定は空欄にしておきます…(笑)。

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――ニューヨークの女性のメイク事情は、どうですか。

フルメイクというよりは、ポイントを効かせている感じですね。特にニューヨーカーはベースメイクをほとんどしない人が多いです。メイクを落とさずに寝る友人に注意しても「翌日、ぐにゅっとなったマスカラの落ちた感じが好き」なんて言ったりしています(笑)。“アクセサリー”を付ける感覚でメイクしている人が多いのかもしれません。私もジーンズとTシャツだけのカジュアルな日は、真っ赤なリップスティックでポイントにしたり、ファッションとのバランスを考えますね。

でも、これってニューヨーク限定の話。アメリカの真ん中あたりの都市は昼夜問わずびっくりするくらいギラギラのアイシャドウに太いアイライン、髪もグルングルンに巻いている人も多く見ます。ニューヨーカーはシンプル。ファッションとメイクのバランスの取り方があか抜けている気がします。

――日本の女性のメイクはどう思いますか?

日本は本当にメイクアップがカルチャーとして根付いているなと思います。「すっぴんで人に会うのは失礼」という、ある種礼儀のような奥ゆかしい感覚もありますよね。下地塗ってファンデーションして次は…とパーツごとにきっちりとメイクして最後はヘアも整える。世界の中でもテクニックや知識はすごいと思います。ただ、ファッションとバランスを取りながら、もっと遊んでもいいのになと思うことも。よく言うんですけれど、“メイクは失敗しても落とせる”んですよ。

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――言われてみれば、その通りですね!

ね。髪型とかは大胆に切ってしまったら、伸びるまでに何か月もかかるけれど、メイクは失敗したらすぐ落とせばいいの。そのためにも自分を客観的に見ることは大事です。似合う似合わないを物怖じしないではっきりと言ってくれる友達がいると美しさは加速しますよね。その点、私は重宝されていますよ(笑)。「その服にその色のリップは違うでしょ! そのままじゃ出かけさせないわよ、ちょっとこっち来て」って何度直したことか。「あ〜RIEのいつものが始まった」って笑いながらもみんな素直に従う(笑)。その代り、似合っているときは大げさなくらい褒めますよ。

ひとりでジャッジするなら、鏡に向かって、離れたり近づいたり、横から覗いたりといろいろな角度から見て欲しい。スマホで写真に撮るのも手ですよね。自分の姿を客観視することは“美しくなる”ための大事な要素。

――つい正面からばかり見てしまいます。いろいろな角度から見ることが大事なのですね。

そう。逆立ちした自分の顔って見たことある?

――ないです(笑)。

頭に溜まった血液が降りてくるという効果もあるし、ヨガでは、逆立ちしたときの顔は“自分のなかの神様”に近い顔って言われてるんですよ。私もやってみましたが、「うそでしょ!?これが神様!?」って思ったけどね(笑)。これはぜひやってみて!

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“余裕のあるメイク”が色気を漂わせる

――今日もニューヨークから帰国したその足でこちらに駆けつけてきてくれましたが、疲れなどみじんも感じない清々しい雰囲気で驚いています。秘訣は何でしょう?

帰国前はドバイで撮影してきたばかりなのですが、本当に移動が多い生活をしています。体力勝負の世界。移動の疲れを残したまま仕事をしたら100%の力が出せませんし、100%が出せないなら次の仕事のオファーはなくなるのがフリーランスです。いつでも万全の力が出せるよう、ある時期からものすごく食生活に気をつけるようになり、格段に体がラクになりました。幸い、ニューヨークという場所柄や仕事柄、ヘルシー思考な友人や仕事仲間も多く、情報はものすごく入ってくるので、少しずつ何が自分に合うかを試したんですね。

もちろん人によって体質も好みも違うので、“私の体が快適なもの”という前置きがつくのですが、まずはお肉をやめて野菜中心に。そして、“グルテンフリー”のものを選ぶようになって、本当に体が軽くなりました。できる範囲で砂糖も取らないようにしていたら、舌の感覚も変わってきたような…。繊細になったというか、砂糖の変わりのメイプルシロップなどを少し入れるだけでものすごく甘く感じるんですよね。

――体質も変わってくるんですね。

私は動きの激しいヨガなどもしますので、野菜ばかりだと、プロテインが足りませんので、藻から取れる良質なプロテイン“スピルリナ”を採ったり。ビタミンCが豊富な抹茶も持ち歩いていますね。と、こうして並べると相当ストイックにやっているように思われますが、全くそんなことはなくて、“自分のできる範囲”で楽みながら少しずつ広げていった感じです。“やらなくちゃ”と義務や偽善でやるのはイヤだし、体にもきっとよくないですよね。

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――毎日、人の顔と向き合っているRIEさんですが、食生活は肌に現れると思いますか?

それは、絶対に。あとは私生活も。肌だけでなく、瞳の輝きや目の動き、態度や姿勢にも現れると思いますね。メイク中でも気付いたらモデルにもすかさず言いますよ。「今、私生活めちゃくちゃでしょう。体にいいものちゃんと食べてる?」「何かあったんだったら言ってごらん」とか…。話しているうちに元気になると、その場できれいになっていきますから。メイクだけじゃなくて、被写体を美しくすることが私の仕事なんです。

――では、RIEさんにとって、“美しい人”ってどんな人でしょうか?

それは……難しいですね。逆から考えると、いちばん美しくないのって“ジェラシー”の感情をもっているときだと思うんです。夢をもって、それに向かって進む人は素敵だけど、その動機が「私にはあれが足りない」「今の自分ではダメだからあの人みたいになりたい」では、美しく見えません。今の自分がいる場所ややっていること、もっているものに自信を持ち、“幸せ”を感じながら、さらに夢を目指している人。そんな人を美しいと思います。

――メイク的にはどうでしょうか。

大人ならば、やはり“余裕”があるメイクをしている人が美しいし、色気があると思いますね。これも逆を考えると分かりやすいのですが、いちばん“イタい”のは、必死さが伝わってくるメイク。もちろん若いころは大いにOK。盛ってナンボ、やりすぎなところもまたかわいい、となりますが、大人はダメ。白鳥じゃないけれど、もがくなら水面下で(笑)。表では涼しい顔していないと。たとえば、光が当たったときやうつむいたときに残像として見える“ボルドー”のマスカラ…なんてすごく色っぽいでしょ。美しい大人のメイクは、一見エフォートレスで余裕があるのです。

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――最後に。仕事をするときに大切にしていることは何でしょうか?

パリにいたころ、ヘアアーティストの方から教えてもらった“粗密雑完”という言葉があります。これは造語なのですが、仕事が上達していくと同時に陥りやすいことを現しているのですが、最初は「粗」。下手で荒い状態。次に少し仕事を覚えて行くと「密」になる。つまり、いろいろなことを過剰に盛りたくなる。“あれもこれもできるんですよ”というアピールも込めてやたら“やり過ぎてしまう”んです。

そして、そのあとは「雑」。文字通り、仕事が雑になってしまうこと。そして、「これではいけない。もう一度最初の気持ちに戻らなくては」と初心を取り戻して、「完成」に近づく。という意味なのです。もう何十年も大切にしている言葉です。


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最後にRIEさんから
“美しくなるためのメッセージ”

これはどの仕事にも当てはまりますよね。自分が「粗密雑完」の今どこにいるか振り返る作業は大切だなと思っています。美しい仕事、完璧な仕事とは、荒さもなく、雑でも密でもない、シンプルなものだと思わせてくれる言葉でもあり、背筋が伸びます。背筋といえば…そう、姿勢の美しさはその人の“美しさ”を大きく左右するものだと思います。私も悔しいときや落ち込んでいるとき、つい猫背になり目線が下がりがち。「いかんいかん」と背筋を戻す…これも常に心がけていることです。

今月の美人
RIE OMOTO

メイクアップアーティスト。コスメブランド“THREE”メイクアップ クリエイティブ ディレクター。1992年に渡仏。リンダ・カンテロのアシスタントを経て、多くのコレクションで活躍。現在はニューヨークを拠点に『ELLE』『VOGUE』『Numéro』などの有名モード誌でメイクを担当するほか、アーティストとのコラボレーション作品も多い。05年には、米『WWD』誌 で「世界でもっとも優れたメイクアップアーティスト100」の一人に選ばれる。

Vol.28 アイビー茜

Vol.26 西 加奈子


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