美人白書

Vol.20 常盤貴子


Apr 23rd, 2014

photo_motohiko hasui(FEMME)
stylist_shoko kumagai
hair&make_yurie taniguchi
text_noriko oba
edit_rhino inc.

5月に公開予定の『野のなななのか』で“謎の女”を演じている常盤貴子さん。熱望していた大林監督の映画への出演が叶い、今どんな想いでいるのでしょう。多忙を極めた20代から今に至るまでの心境の変化や大切にしている言葉、ファッション観までとことんお伺いしました。

臆せず歩み続ける常磐貴子さんの美の秘訣

芦別市民の想いを乗せて。

―― 5月に公開される『野のなななのか』は、全編芦別市で撮影されていて、制作にも芦別市の方たちが大きく関わっていたそうですね。

この映画の源となっているのは、芦別市出身の鈴木評司さんというひとりの青年の想いなんです。少年時代に大林監督の尾道三部作に惚れ込んだ彼が「いつか自分の故郷でも監督に撮ってもらいたい」という想いを抱き、数年後に、実際に大林監督を校長先生に迎えて、芦別市に「星の降る里芦別映画学校」を設立し、夢の実現に踏み出すのです。
残念ながら、鈴木さんは36歳という若さでなくなってしまうのですが、それでも芦別市のみなさんが彼の意思を継いでやっていこうと映画学校を続けて、設立から20年経ってやっとの想いで成し遂げられた映画なんです。

―― 撮影中も芦別の方といろいろな交流があったのだとか。

そうなんです。食事も給食センターの方が毎日炊き出しをしてくれたり、町に食事に出ても「映画の撮影ですよね。頑張ってください」といろんな方に声をかけていただきました。何か芦別市の特別な行事に参加させてもらえているような楽しさがありました。

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―― 映画づくりが町のイベントなんて、素敵ですね。

資金もどこかの大きな企業が入って、というのではなく、芦別市の方が地元の未来の文化に投資するという形で集められているのです。初めての経験でしたけれど、こんな風に映画ができるのって、すごく健全でいいなと思いました。大きな企業が入って、億単位の話をされて”当ててね”なんて言われても……怖いじゃない?そういうの(笑)。

―― ”なななのか”とは四十九日のことなのですね。映画は生と死の境界線があいまいな”なななのか”の期間を通して物語が進んでいきます。常盤さん自身は、”ななななのか”の世界についてどう思いますか?

大切な人を亡くしたとき、すごく辛いけれど、生きているときよりもその人を近くに感じることもあって、私は、この世界観をすっと受け入れられるタイプなんです。お互いが生きているときは、メールや電話を使ってもうまく気持ちが疎通しないこともあるけれど、亡くなった瞬間に直接話せるように感じます。今まで言えなかったことを伝えられたり、聞きたかったことに答えてもらえるような気がしたり。

―― 映画でもそのようなシーンがあるのでしょうか。

映画では、主役の鈴木光男さんが亡くなるところから物語が始まるのですが、光男さんは結局登場しっぱなしなんです。つまりずっと”そこ”にいるんですね。”なななのか”とは、そういうことなのだろうと思います。

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“意味”を求めず、とにかく動いてみる

―― そのなかで常盤さんは”謎の女”を演じています。謎の女とは、どんな女性なのでしょう。

謎の部分を語るわけにはいかないのですが(笑)、今回、私はいつかどこかで挑戦したいと思っていた”あること”にチャレンジすることができました。

―― チャレンジしたかったこと……とは?

小津映画に出演した俳優さんの昔のインタビュー記事を読んでいると、たびたび目にする「こういう演技をしてくれという注文があったので、どんな気持ちなのかは分からないけれどもとりあえず動いた」という記事。「意思を持たずに動く」……それって何?どういうこと?と大いに疑問があったのです。分からないのにただ人形のように動くって、俳優として筋が通っているのかな、演じていて気持ち悪くないのかなと不思議に思っていました。でもその結果として残っている作品はすばらしいわけです。これは何かあるだろうと考えているうちに、いつしか私もそんな演技をどこかでしてみたいと思うようになっていました。

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―― 今回、チャレンジしたこととは、まさにそれだったんですね。

はい。台本を読んでみて、正直、分からない所がたくさんあったんです。でも、そのままやってみようと思いました。芝居に”意味”を求めず、とにかく”動いてみよう”と。それは全信頼を置ける監督さんのもとでないと、演る勇気はないので、「このチャンスしかない」と。

―― それだけでもすごく謎めていますね。

見ている人も”えっ今どうしてそっち見たの?”とか、”なんでなんで”を積み重ねていくうちに迷路に迷い込んだみたいな気持ちになるかもしれません。今回は”謎の女”という役を利用して、みなさんを迷路に誘い込めたら本望だなって。……ただ、これは賛否両論だろうとも思うんです。

―― その分からなさが嫌だという人もいそうです。

昔のフランス映画では特にそうですが「あれは何だったんだろう」と疑問を残したままエンディングを迎える作品が多くありましたよね。それが10年後20年後の何かのタイミングで “こういうことだったのか!”と繋がる瞬間があると鳥肌が立つほどの感動を覚えます。

たとえ”!”の瞬間が来なくても、疑問や不思議を感じて「あのシーンってどういうこと?」と一緒に映画を見た人と話し合う、それだけで豊かな時間が生まれると思うんです。そこで映画が育っていくというか。なので「分からなかった」という感想もある意味とても正しいと思っています。それに、記者の方に毎回「今回の映画のテーマは?」って聞かれることにも少し辟易していたんです。テーマをひと言でくくってしまったら、広がることなく終わってしまうから。

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空気は、「読まない」。

―― 20代、30代、そして今と仕事への取り組み方に変化はありますか?

30代になってずいぶんと気持ちが楽になりましたね。20代はとにかく前に走り抜けてきた感じ。出来ませんという選択肢はありませんでしたね。どんな仕事でもどんな台詞もすべて「やります」が当たり前。それが少しずつ薄まってきて、今では完全に「やりたくありません」と言えるように(笑)。「やりたくないから、やりません」。バサッ!と。いや、自分でも笑っちゃうんですよ。「やりたくありませんって、それ大人としてどうなの」って。でも同時に「これはむしろ大人だな、悪くないぞ」とも思います。30代のころから”空気は読まない”が大きなテーマなのです。

―― 30代になると空気を読むのがどんどん上手になるだけに、「読まない」って難しいですよね……。

空気を読んで何かをするのって、重要そうに見えても意外に些細なことだと思うんですよ。空気を読みすぎて自分の首を絞めてしまうのなら、少し緩めて、力を出すときに一気に出そうという戦法です。その方が効率がいいんじゃないかな。だんだんと体力が衰えてくる分、効率よく自分を動かすことも考えないといけませんよね。これもがむしゃら時代の20代があってこそ気づいたこと。私にとっては必要な時期だったと思います。

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駅で見た“タイル”が役づくりの鍵に

―― 女優としての転機となる作品を挙げるとすれば、どの作品ですか。

そうですね、ひとつ挙げるのは難しいです。一作一作が転機で、少しずつ変化をしているんだと思います。今回の『野のなななのか』も相当な転機ですね。

大林監督の描き出す世界観もたまらなく大好きですし、監督のお人柄に出会えたことは私の人生で大きな勉強になりました。監督の人を引きつける吸引力といったらもうすごいんですよ。ロケ場所に尾道の喫茶店のマスターがコーヒーをどんっと送ってきてくれたり、新潟からおいしい日本酒が届いたり、「監督がんばって」と遠くから北海道の芦別市まで陣中見舞いに来てくれたり。でも、ご一緒してその気持ちがよく分かりました。

―― その魅力は何なのでしょうか。

すごく優しいけれど優しいだけじゃなく、ときに厳しいご意見をもらうときもある。だけど横にいると……なんていうか”ハッピー”なんです。

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―― ドラマや映画の役づくりについても教えてください。

毎回違うのですが、自分の勘に頼って、これだ!と降りてくる”そのとき”を待つタイプです。まわりの人やモノがきっと助けてくれるはずだと信じているので、模索期間は積極的に人と接したり、外に出かけていきます。何かが直感を刺激して”ピン!”ときたら、そこからブワァッと一気にイメージを膨らませていくんです。誰かがふいに言った言葉や街の看板にあるコピー。本当にさまざまです。

―― 人以外からもピンとくることがあるのですか?

何かの光とか、どこかを歩いていたときの風、とか。『ゆりちかへ ママからの伝言』のときなんかはね、佐賀出身の亡くなられている方の役だったので、お墓参りに行こうとひとり唐津の駅に降り立ったのですが、その駅のお手洗いで見たタイルを見たときに、これだ!と役をつかんだこともあるんです。

―― え?!タイルからインスピレーションが? それはタイルの色とか雰囲気とかがヒントになったということですか?

そうでしょうね。我ながら”どこからでも取っていくな〜自分”と思いましたけれど(笑)。写メを取って、撮影の間もずっとそのタイルを心に想い浮かべて。なので、役づくりは毎回バラバラです。

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どん底の自分ってけっこう面白いですよ。

―― 監督や先輩に言われて大事にしている言葉はありますか?

たくさんありますが、デビュー間もない頃、松尾嘉代さんにいただいた言葉もそのひとつ。役づくりに悩んでいた私に「とことん悩みなさい」と言ってくださったんです。「とことん悩み抜いて出した答えは、今あなたに必要な答えだから」と。今も何か考えるときは、答えが出ようが出まいがとにかく”とことん”まで悩み抜きます、もうどん底っていうくらいに(笑)。

―― ど、どん底ですか……。

面白いですよ、どん底にいる自分って。シャレにならないくらいに暗いですし。1週間くらい引きこもっているとね、久しぶりに人と会っても、話し方を忘れたみたいに声とか言葉がうまく出てこないんですよ。そんな自分を客観的に見ると、だんだん面白くなってくるんですよね。「私、話し方を忘れちゃってるよ……」って(笑)。

―― 落ちたら上がれなくなりそうで、”とことん”まで行くのはちょっとこわい気がします。

いつかは自然とあがるしかないから。大丈夫ですよ。自然の成り行きに任せて落ちるところまで落ちて、自然に上がってくるのを待ちます。その間に”とことん考える”。本当にいい言葉をいただいたと思います。

―― 落ちた自分をおもしろがれるのが……すごいですよね。

絶望的にはなるのですが、片隅に”とことんまで落ちてみるか”って舌なめずりする自分もいる。ときには、「この状態は書き留めておいた方がいいかもしれない」とノートに状況や気持ちを書き出すこともあるのですが、あとから読んでみると……。

―― どんなことが書いてあるのでしょうか? 興味津々です!

とてもじゃないけれど、読めるもんじゃありません。暗すぎて(笑)。「こんなん読めるか!」って。そのときは心底落ち込んでいても、あとから振り返ると意外と小ちゃいことだったりするんですよね。あんなくだらないことで絶望的になっていたんだって。

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ブレザーシャツ(5月入荷)タンクトップスカートブレスレット(ネイビー)ブレスレット(ピンク)ブレスレット(オレンジ色は参考商品)/NEWYORKER BLUE
ネックレス、コサージュ / スタイリスト私物 シューズ/参考商品

「ちゃんとかっこいい女になれる?」

―― 話は突然変わりますが、常盤さんは普段はどんなファッションをすることが多いですか?

いろいろな服を着るように心がけています。というのも20代後半くらいのときに黒ばかりを選んでいることがあって、”自分が安心できるものばかりを着ようとしている”と感じたんです。これは女優として致命的なこと。それ以来意識していろいろな色や雰囲気のものを選ぶようにしています。

―― 買い物をするときにポイントにしていることは何でしょうか?

最近は、年齢のことを考えますね。特に”かわいい”服に惹かれてしまうときには、その服を着たときに何をプラスして何をマイナスしたら、大人度をあげられるかを考えます。例えば、今日のように白いふんわりとしたスカートは、トップスもふんわりでは、”かわいい”過多になってしまう。ネイビーのジャケットと合わせることで大人度が上がり、バランスが整います。かわいい服を手に取るときは、買う前に心のなかで問いかけます。「大丈夫? これを着てもちゃんとかっこいい女になる?」って(笑)。

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―― ”自分への確認”をするのは、いいですね!

肌触りなど心地よさも服を選ぶうえでは重視します。これも加減が難しいところで、部屋着であっても、心地よさだけを求めてしまうのは考えもの。やはり年齢が上がると、気を抜くと顔も体もずるずると下がってきますから。家で寛ぐにもある程度のきちんと感は必要です。ここでも心の声が「リラックスする服もいいけれど、加減は見極めてね」と釘を刺してきます。

―― 家で寛ぐほかにとっておきのリラックススポットはありますか?

海でぼーっとする時間は好きですね。おすすめは満月の夜。砂浜が見えるまで真っ暗な道を少しずつ進んで行くのが…たまらなくこわいんですが(笑)。そこを我慢して、目の前に海が開けて満月が見えると……暗い道で追い込んだ分、うれしさも倍増します。おすすめと言ってしまいましたが、ひとりで行って危ない目にあったら大変。誰かと一緒に行ってくださいね。


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©2014 芦別映画製作委員会/PSC

INFORMATION

キャスト:品川徹、常盤貴子、村田雄浩、寺島咲、安達祐実、他。
監督・脚本:大林宣彦
原作:長谷川孝治『なななのか』
企画・製作:芦別映画製作委員会、株式会社PSC
協力:芦別市、芦別市のひとびと、他。
配給:PSC TMエンタテインメント

5月10日(土)北海道内先行ロードショー。
5月17日(土)有楽町スバル座 他全国ロードショー!

今月の美人
常盤 貴子

女優。1991年に女優デビュー。『愛していると言ってくれ』(TBS)『Beautiful Life--ふたりでいた日々』(TBS)『カバチタレ!』(CX)など数々の人気ドラマで主演を勤めるほか、『赤い月』『20世紀少年』など多くの映画作品に出演する。CMや舞台でも活躍。5月に公開の映画『野のなななのか』では、謎の女清水信子を熱演。長年の夢であった大林映画への出演を果たす。 http://official.stardust.co.jp/tokiwa/

Vol.21 永山祐子

Vol.19 ヤマザキマリ


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