美人白書

Vol.12 中塚翠涛


Aug 28th, 2013

photo_ ayumi yamamoto
stylist_ayako fukuda
hair&make_mika kikuchi
text_maho honjo
edit_rhino_inc

“書家”としての活動はもちろんのこと、“美文字先生”としてテレビでも活躍中の中塚さん。書を扱うアーティストとして、独自の世界を切り開く彼女には、美しくあるためのとっておきの秘訣がありました。

中塚翠涛さんを美しさへと導くもの

気がつけば、書はいつも隣に。

–まず”書家”という肩書きをもつ中塚さんが、書道をたしなむようになったきっかけを教えてください。

私は岡山県の倉敷で育ったのですが、3,4歳のころ、兄が通う書道教室についていったのが書に触れた最初ですね。筆がもつ、なんともいえない弾力が楽しくて、「私もやりたい!」と。今でも「字を書いている」というより、あのころの「筆遊びをしている」感覚の延長にいる気がします。ただそこはけっこうなスパルタ塾で、展覧会の前は1日何百枚も書いたり、小学生ながら合宿でこもることも。中学生になって部活との両立が難しくなり、「辞めたい…」と母親に相談したら、「せっかく続けてきたんだから、少しずつでもやってみたら?」と言われ、自分のペースで続けてきました。

–そのころから「将来は書家になる」と思っていたのですか? それとも…?

当時、『ファッション通信』というテレビ番組が大好きで、海外への憧れも強く、ファッション関係に興味がありました。桂由美さんのウエディングショーを岡山で見たとき、私が憧れたのはお嫁さんではなく、裏方の人々。デザイナーってどうすればなれるの? と調べたこともありました。ただ、大学受験のときに、担任の先生から「ずっと書道をやってきたのだから」と書の大学を勧められました。見学に行ってみると、全国の強者たちが勢ぞろい。自分は井の中の蛙だったのだと気づきました。そして、もう少し書を追求してもいいのかも? と、その大学への進学を決めたんです。

–大学生活はいかがでしたか?

実際は、とっても奥が深くて、マニアックな世界。正直、話が理論的すぎて苦痛に感じたこともありました。書道史の理論と技術が一致する部分が見つからず、もっと別の角度からアプローチできないかな、と模索していました。昔の人の字を学んで真似てみても、私はその時代には生きていないし、同じ空気を吸っていない。だから、似た字は書けても同じ良さはだせない。ならば、それを学んだ上で現代にどう活かせるのか、自分なりの表現方法で何かできないか、と思っていました。この頃から、書を活かした仕事ができないかな、とおぼろげながら考えていたのかもしれませんね。

step01

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NEWYORKER MAGAZINEを描いてくれた一枚。

自分の感受性を磨いてくれるのが、“旅”。

–“自分の道”を見つけるために、何をどう”模索”したのですか?

まず「自分が興味のあること」を知ることから始めました。私の場合は、昔から絵を観るのが好きだったな…と。岡山には、世界の名画がそろう「大原美術館」があって、幼い頃から母と一緒に何度も足を運んでいました。自分の好きな作家がどんなところに生まれて、どんなふうに育ったのか。そこにはどんな空気が流れていて、なぜその絵が生まれたのか、そんなことまで知りたいと思うようになったんです。それから、彼らのルーツを探す旅に出かけるようになりました。

–“本物の絵”を観に出かける旅ですね。

国内国外問わず、とにかく出かけていきました。写真で見ているのと、現地で本物を見るのとでは、驚くほど感動が違うんですよね。さらに、ひとりのアーティストをとっても「こんな作品もつくっていたの?」と意外な一面を見つけたり、それがその方の大作のきっかけになっていることがわかったりしました。また、ある作品から別の画家につながって、その画家が妙に気になり始めたり…。謎解き感覚で旅をしているとワクワクするし、結果、制作意欲も湧いてくるんです。旅は私にとって欠かせないものになっています。

–旅の途中の印象的な出来事はありますか?

3年ほど前、ヒューストンの「メニル・コレクション」という美術館にある「ロスコ・チャペル」を訪れたときのこと。以前からマーク・ロスコは大好きで、明るい色なのに暗さや影もあり、でもポジティブな印象を残すところに特別なものを感じてはいたのですが、その教会へ一歩足を踏み入れた途端、自分の体が動かなくなってしまったのです。それは感動というより”浄化”といった感覚。明かりは天窓から差す光のみで、見える色がグラデーションで変化したかと思えば、私には不動明王のような像が見える時間もあり、気がつけば6時間ほどそこにいたのです。滞在中、毎日通ったのは言うまでもなく、今でも目をつぶると、ふっとあのときの感覚とつながることができます。

アートを訪ねる旅から刺激を受けて。

–“浄化される感覚”なんて、特別な体験ですね。

ちょうどそのころから、体幹トレーニングを始めました。書道とは直接関係ないように思えるのですが、体力がないといい仕事もできないし、コアを鍛えようと思い立って。おへその下あたり(丹田)に意識を集中させて、じっと片足で立ったり、少しずつ動かしたりなど、とにかく動きは地味。でもそれから体調も安定し、自分のテンションがコントロールできるようになったんです。そして何より創作に集中できるようになりました。「緊張して頭が真っ白!」なんてこと、みなさんはありませんか? それって、気が散乱してるからなんですって。そこで丹田に気を集中させてみる。すると不思議、気分が落ち着いてきます。体の中心軸ができるから、よけいな力が抜けて、姿勢もよくなるんですよ。

–確かに、中塚さんの姿勢はとてもきれいです。

突然「ロスコ・チャペル」から「体幹トレーニング」に話題が変わってしまいましたが(笑)、私の場合、目をつぶって丹田に気を集中させると「ロスコ・チャペル」での”浄化”の感覚につながるんです。ちなみにその後、「ロスコ・チャペル」の誕生に影響を与えたという、ヴァンスにあるマティスが手がけた「ロザリオ礼拝堂」を訪れたら、空気の流れが似ていて驚きました。彼らの存在は畏れ多いけれど、少しでも近づくためにはどうしたらいいのか、そんなことを考えるきっかけをくれた旅でした。

–旅を経て、中塚さんご自身の作風に変化はあったのでしょうか。

作品のサイズに対する意識が変わりました。特に海外を巡ったことで、「もっと大きな作品をつくりたい!」と思うように。漢字ひとつ書くにしても、使う筆が変わればそれはまったく違った文字になる。ならば私はどんな規模でどんな表現をするのか、その探究心がさらに増した気がします。

美文字先生による、美文字テクニックをレクチャー

–中塚さんは、ご自身の作品制作以外にも、”美文字先生”としても活躍されていますよね。今日はぜひ、美文字のためのコツを教えていただきたいのです。

「ご結婚おめでとうございます」と「誠にありがとうございます」ですね。お祝いや感謝の気持ちを伝える言葉は、心を込めるとともに、きれいな文字で書けるようにしておきたいものです。まず「ご結婚おめでとうございます」から始めましょう。うん、これは一文字ごとに丁寧に書いたことが伝わってくる書面ですね。以下、ポイントを挙げていきます。

step01
① まず「結婚」という漢字ですが、”とめ”や”はらい”にメリハリをつけましょう。一画一画丁寧に、はらってとめる、はらってとめるをきちんと繰り返すことが大切です。
② 「お」は結び目を小さくしたのはいいですね。ただもう少し結び目を下位置にもってきたほうがバランスがきれいに見えます。
③ 「う」は最後のはらいを縦長になめらかにはらう。そうすると、文章に流れが出ますよ。
④ 「ござい」はきれいですね。「ます」は、それぞれのヨコ線をなめらかに書く。するとこちらも文字に流れが出ますよ。
step01
① 「誠」ですが、ヘンをもう少しツクリに近づけましょう。また、漢字はヘンよりもツクリを大きく書いた方がバランスがとれます。
② 「あ」は、一画目のヨコ線が右下がりになっています。まっすぐ、もしくは少し右上がりぐらいがきれいですよ。
③ 「ました」ですが、やはり「ま」のヨコ線をなめらかに引きましょう。「し」は、このように釣り針のように書くのもいいですし、次の文字「た」へ向かうように流して書くのもいいです。そして最後の「た」。台形をイメージして、二画目の斜め線を長くし、三画目と四画目との余白をとるとすっきりまとまりますよ。

–美しい文字を書くために、今すぐできることを教えてください。

繰り返しになりますが、「一画一画の”とめ”と”はらい”を丁寧に意識すること」でしょうか。また、「姿勢を正して書くこと」も、すごく重要。手元ばかりでなく、文字の並び全体のバランスを見ることにつながりますよ。

創作に必要なのは、ありのままの自分でいること。

–では、お話を戻して、中塚さんの実際の作品づくりについて教えてください。頭のなかにラフがあるのか、それとも突然筆を取るのか、など…。

ある程度のイメージは自分のなかにあるつもりなんですけど、一旦書き始めると、あとは筆が勝手に動いていますね。ただ計算していると作為的になったり、自分のなかにブレがあるとそれが如実に出てしまいます。自分のイメージに向かいつつ、何も考えていない状態というのが理想ですね。究極は”無作為の作為”。それが瞬間芸術のおもしろいところだと思うんです。

–行き詰まりを感じることはありますか? そのときはどうしますか?

スパッとやめます。そしてカレーをつくります(笑)。私、カレーをつくるときの玉ねぎを炒める作業が大好きなんですよ。つくろうと思うとあの作業は面倒だけれど、気分転換ならば、アメ色になるまでただひたすら炒めるのは至福の時間。そういえば先日、気がついたらカレーがふた鍋できあがっていたことがありました!

–創作する上で、心がけていることはありますか?

ありのままの自分でいること、正直でいること。そのためにたっぷりと寝て、おいしいものを食べます。悩みを抱えた状態は作品にも出るので、そのときは好きなものに触れる時間をつくります。例えば、雲の動きを見ているだけで、めちゃくちゃテンションが上がるんですよ。あの雲は刷毛で書いたみたい、あの雲は墨がにじんだみたい、なんて書と重ねることも。飛行機に乗ったときは、魅力的な雲との出逢いのおかげで、ずっと興奮状態ですね。悩み事を抱えてるくらいなら、好きなものに触れて、自分らしくいられる状態をつくるようにしています。

–最後に、これからやりたいこと、目指したいことを教えてください。

以前、「時 −TOKI−」というタイトルの展示で時間や気候に合わせて文字を動かすという映像作品を作ったことがありました。気象庁のデータをもとに世界5都市の時間とともに「花・鳥・風・月」それぞれの文字を咲かせたり、飛ばしたり、月は新月から満月に変化していく様子を表現しました。とても多くの方から、様々な反響を頂きました。今度は自分の筆から生まれた作品が、静止している文字の中で、動きを連想させるような、そんな造形的な作品をつくることができたらいいな、と思っています。


最後に中塚 翠涛さんから
“美しくなるためのメッセージ”

やはり…”旅”をすること、につきる気がします。
国内国外問わず、知らない土地に出かけて行き、自分の好奇心の赴くままに動いてみる。そんなふうにして過ごした時間は、美のアンテナを心地よく刺激してくれるのではないでしょうか。少なくとも私にとっては、かけがえのない時間であり、創作意欲を駆り立ててくれる宝のようなもの。うーん、もはや生活の一部かも? 
忙しい時間をやりくりして長期の旅ができれば最高だし、明日いつもと違う道を通って空を見上げるだけでも、美の感性は刺激されるはず! そう考えています。


今月の美人
中塚 翠涛

岡山県倉敷市出身。東京都在住。四歳から書を学ぶ。大東文化大学文学部中国文学科(現・中国学科)卒業。古典的な書をもとに、和紙だけでなく陶器やガラス、映像などの様々な手法で、文字のもつ魅力を表現し、国内外で活動。創作活動と同時に、多くの方に手書きを楽しんでいただきたいという想いから、ペン字練習帳等の出版も多数。

Vol.13 八木沼純子

Vol.11 小林ひろ美


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