美人白書

Vol.35 大宮エリー


Aug 5th, 2015

photo_ari takagi
styling_kumi asakawa
hair&make-up_kumi nakagawa
text_noriko oba
edit_rhino inc.

エッセイや小説、詩集の執筆を行いながら、CMプランナーとしても活躍、最近は、アートの分野でも注目されている大宮エリーさん。日々アンテナを張り巡らし、誰よりも充実した日常を過ごしているかと思いきや「楽しいこと? 特にないですねぇ」という意外な回答が。今回は、絵や本の制作にまつわることや仕事の原動力など、さまざまなことを語っていただきました。

ユーモア、愛情、感性すべてで人を喜ばせる。
大宮エリーさんの美の秘訣

PHOTO

40歳手前で、絵を描くことになるとは。

――今年の6月に、初の画集『EMOTIONAL JOURNEY』が発売されるなど、最近はアートの分野でも活躍されていますね。

初めて人前で絵を描いたのは、2012年に行われた「モンブラン国際文化賞」の授賞式でした。このときは、代官山の『小山登美夫ギャラリー』を主宰する小山さんから声をかけていただいて、ライブペイントをすることになったのですが、それまでも小山さんは、「絵がすごくいいから、もっと描いた方がいい」と言ってくださっていて。

東急ハンズに画材を買いにいくところから始めて、当日は、直前にお酒をわーっと飲んで何とか切り抜けました。今思えば、安藤忠雄さんや杉本博司さんがいらっしゃる前でよくやったなと思いますよ。終わったときに、会場の拍手が本当にうれしくて、席について「セーフだったね!」と笑い合ったことを覚えています。

――そこから2年半後には、画集が出るのもすごいです。

それも、表参道での個展のときに描いた、大きな絵を見た小山さんが「この絵は、絶対に捨てちゃだめだよ」とおっしゃってくれて、しばらく倉庫で保管していたのですが。どうしても倉庫代がもったいなくて、去年の年末に小山さんに「あの絵を処分します」って連絡したんです。そしたら「ダメダメ! だったら、個展をしよう」という運びになり、そこから画集もつくることになり、と話が進んでいきました。

PHOTO

――絵は、小さい頃から描いていたのですか?

いや、好きでしたけれど、幼稚園の写生大会で入賞するとか(笑)、そんな程度ですよ。まさか40歳手前で、こんなに絵を描くことになるとは思いませんでした。

――アートは、本や映画のように時間がかからず、一瞬で伝わってくるのが、おもしろいと以前におっしゃっていましたよね。

自分が絵を描くようになっても、絵の伝わり方は、本や映画とはまた違って、おもしろいなと思います。私の作品で、ハワイ島でマグマを見たときに描いたものがあるのですが、それは、溶岩が海に流れ落ちる真っ赤なエネルギーのかたまりを目の前で見たときの感動や衝撃を描いたものです。最初に見たときは、あまりのパワーに圧倒されてしまい、怖くも感じたのですが、見ているうちに「このエネルギーは、地球の愛だ、地球は生きてる」って、心底感じたんです。そのエネルギーをキャンバスに転写するイメージで描いたら、絵を見た人から「愛があふれてる!」って言ってもらえたり。「ダイレクトに伝わるんだ」とすごくうれしかったです。

PHOTO

野心も向上力も…ないです。

――エリーさんが、電通を辞めてフリーになったのは、何歳のときですか?

30歳です。いやぁ会社務めは向いてなかったですね。出張申請書も報告書も不備だらけだし、総務の人からは「こんなにできないはずがない。事務仕事を軽んじてるんだ」って言われたりして。いや、手を抜いていることは一切ないのですが、どうしてもできないんですよ。

――フリーに転身し、仕事の仕方は変わりましたか?

やっぱり自分のできる範囲の仕事の大きさになりますね。大きな組織じゃないとできない仕事も魅力的ですけど、でも、結局私は、そこにはあまり興味がなくて、いや、なくなっちゃったのかな。料理人にたとえると、「お店は5席しかない小さなお店だけど、来てくれる人が満足してくれるのがうれしい」というタイプですね。

PHOTO

――今後、どんな仕事にチャレンジしたい、などはありますか?

今日ここに来る途中、改札を通るときにね、「あぁ、私は野心とか向上心とか、ないんだよなー、うん、ない」ってはっきりと確信してしまって(笑)。

――それは、とても意外です。

友人にも「自分は、この先こんな仕事をしてこんな風になっていきたい。エリーはどうするの?」とか、よく聞かれるんですけど、ないので、一応「この先は、こういう予定があって」とか答えてみるのですが、「いや、スケジュールを聞いたんじゃなくて、目標の話!」って言われますね。全体的にすごく受け身なんです。

――そうなんですか。でも、ものすごく精力的にいろいろな仕事をされていますよね。その原動力はいったい何なのでしょうか?

そうですね…家賃?

PHOTO

――え?(笑)

家賃とか生活費とか、毎月払わないと生きていけないというのは、すっごい原動力ですよ。サラリーマンじゃないから、決まったサラリーはないし。払えなくなったらどうしようって、よく心配になります。それで、こういう悩みは減らしたほうがいいと思って、最近家賃の低いところに引っ越したんですよ。そしたら、本当に気持ちがめちゃくちゃ楽になって、この先、どんどん下げていきたいと思っています。

あとは、“頼まれた”ということも原動力ですね。やるからには喜んでもらいたいし、「あなたに頼んでよかったよ」って言ってもらいたいし。頼んでくれたことに、感謝の気持ちでリターンしたいとは常に思っています。

PHOTO

迷った人のそばに居続けられる物語を書きたい

――ということは、頼まれたときのパワーの出し方がすごいんですね。

私は料理が好きで友達にもふるまったりするのですが、決して「私が今ハマってるこの料理、美味しいから食べてみて!」というタイプではないんです。「旅した気持ちになりたい」って言われたら、エキゾチックな料理をつくろうかな、とか「最近寂しくて」って言う人がいたら、おふくろの味っぽいのつくってみようかな、とか。自分のなかから湧き出るものがないから、リクエストをもらって、そこからアイディアを出したり、見てくれる人に向かってあふれるものを制作していくのが好きなんです。仕事も同じ。短編小説集『猫のマルモ』も、そうでした。

PHOTO

――最初に何かお題があったのですか。

働く人が読む雑誌からの依頼だったのですが、読者が「泣けて、癒されて、元気になる」ものが読みたい、とオーダーがあって。そりゃてんこ盛りだな(笑)って思ったのですが、考えているうちに、動物を主人公にすれば癒されるかな、その動物が働いたり、人生のなかで迷っている設定でつくっていきたいと思いました。

物語のなかには多くの悩める動物が出てくるのですが、彼らが抱えている「私って能力ないのかな」とか「自分って何」「愛ってなんだろう」という悩みは、誰もが持ったことがあるはずだし、今まさに渦中にいる人のヒントになるようなことが書けたらいいなと思いました。

普段から、サイン会でそういう悩み事を直接聞いたり、ラジオに投稿してくれる人もいるのですが、物語を書き始めたら、その人たちのことが次から次へと浮かんできて、彼らを励ましたい! でも私がずっとそばにいることはできないから、その人たちのお守り的な物語を、と思ったら、もう思いがあふれてきて、ラブレターを書くような気持ちで、一気に書き上げました。

PHOTO

――エリーさんが経験してきたことがもとになっているものもあるのですか。

はい。コンプレックスが武器になるという話の『青ガニのサワッチ』は、自分がコンプレックスと向き合った経験をもとに書きました。私はいろいろな人から「エリーさんって、作家も演出も絵も朗読もやって、いったい何者なんですか?」「本業は何ですか?」とよく聞かれるのですが、そのたびに自分でも「私にはこれだというものがない」と、コンプレックスを感じていたんです。

でもいつしか、「まぁそういう人がいてもいいし、何者でもないから見えることもあるのかもしれないし」と捉えるようになってから、気持ちがものすごく楽になったんですよね。結局自分を信じることがいちばん強くて、その気持ちがあれば、劣っていること、馬鹿にされていることを逆手に取って強みにできるんじゃないかなって。

PHOTO

――鈍くささを逆手に取ったサワッチにしかできない快進撃は、胸がすっとしました。

ほかにも、「私このままでいいのかな」という思いを抱えたありんこが主役の『はみだしトン子』の話も、私が会社にいる頃、「このままでいいのかな」と悶々としていたことを思い出して書いたのですが、結局、このままでいいのかなって思っているうちは、このままでしかないよね、と思うんです。パッとしないときは、籠ってないで外へ出てみることって大事。私も突如恵比寿から、江の電に乗って、江ノ島の海を見てすっきりして帰ってきたことがありましたが、『はみだしトン子』には、その経験も入っています。目をつぶってパッと飛び出すことって意外に大切で、そうすると思わぬところから流れがやってきたりしますから。

「視点を変えたら違う光景が見えるかも」や「私はこうやって生き抜いてきたよ」という話を動物に託して5つ書きました。そしたら、物語を読んだ知り合いの男性から「あの短編読んで、男泣きに泣いた。ぜひ本にしてくれ」という電話をもらって。それがまぁ3年前なんですけど。

――ずいぶん経ちましたね。

はい、このたび3年越しにふたつストーリーを加えて、1冊にまとめることができました。

PHOTO

神様がもういいよって言ってくれるまで、働きます。

――ところで、エリーさんの今いちばんの楽しみって何でしょうか。

え、楽しみですか。改めて考えると、…ないですね、楽しみ。そんなみんな楽しいの?毎日。どうしよう、ないなぁ。キラキラした話ができなくて申し訳ないです。これさえしてれば幸せ、みたいな心ときめく趣味もないし、誰かの熱烈なファンになったこともないし、何かにのめり込むってことができないんですよね、きっと不幸体質なんです(笑)。

――そんな。

アンガールズの田中君は最近、「紅茶入れるのが大好きで、美味しく淹れることを考えるだけで、超楽しい」とか言うのですが、本当にうらやましいですよ、そういう趣味がある人。一生添い遂げられるような趣味が、いつか見つかったらいいなと、常に探してはいるんですけどね。いや、もちろん楽しくないとか不幸だと言う気はないですよ、帰る部屋があって、太陽が当たって、幸せを感じることもあります。

そういえば、昔一緒にお仕事をした女性が、すごい本のタイトルを見つけたと教えてくれたのが、『幸せではないが、もういい』という本でした。なんかぴったり。よくわかります。なぜでしょう、今ふと思い出しました(笑)。

PHOTO

――ハマったものがあまりないことも含めて、エリーさんは小さいころから変わりませんか?

そうですね、アイドルや俳優を夢中になって追いかけた記憶もないですし、あまり変わらないです。小学生の頃は、いじめられっ子だったので、そのときに培われた卑屈な気持ちは今でもあると思いますね。「どうせみんな私のこと嫌いなんでしょ」とか「私なんて、いなくていいんだ」とか。今、ライブをしたり個展を開いていますが、それも「私、こんなすごい作品つくったよ!見て見て!」というモチベーションは、一切なくて、「どうせ批判されるんだろうな。できれば誰にも見ないで欲しい……」とか、とにかくすぐに弱気になってしまうんです。

――今、こんなにいろいろな方面から求められていても、そう思いますか?

求められているなんて思わないですよ。たまたまのタイミングが重なって、「大宮エリーにしとく〜?」くらいのもんですよ。私が無理なら、代わりの人だってたくさんいますし。それよりも、たとえば結婚は、「君じゃないとダメなんだ」と思われて、プロポーズされてるわけですよね。それこそが、求められたということだと思いますね。私は、小さい頃から唯一なりたいものは“主婦”でしたが、こればっかりはね、どうしたらいいやら。神様がもういいよって言ってくれるまで、働くしかないですね。

PHOTO

休むことも仕事のうち。

――ファッションについてもお伺いしたいです。普段はどんなスタイルが多いですか?

仕事のときは、相手に合わせて考えます。いろいろな仕事をしていることもありますが、今日はクリエイターとして来て欲しいのかなと感じたら、デザイン性の強い、黒い服を選んだり、目立って欲しいのかなと思ったら、華やかな服を着ようとか、相手が望んでいるキャラに合わせて、自分が服でできる“演出”を考えて、着ます。その服を着ることで、私もキャラやモードに入れる、洋服はスイッチのようなもの。

――プライベートでは、どうですか?

プライベートは、ワンピースばっかり着ています。あまりにもカジュアルすぎると、大人には似合わないので、シンプルなデザインで、ちょっとかわいらしい感じがあるとか、ほどよく品のあるワンピースが好きです。それは、30代になってから変わらないかな。

PHOTO

――最近、仕事で変化したことは何かありますか?

体力が落ちた事を痛感する30代後半からは、やっと「休むことも仕事のうち」だと、身にしみてわかってきました。20代、30歳前半と同じような、体力の使い方をしていては、その後の疲弊もひどくなり、回復に時間がかかってしまうので、効率よく働くためにも、適度なところできちんと休むことが大事なんだと、実際に一度体調を崩して学びました。

――それはいつ頃だったのですか?

個展が続いた一昨年の10月くらいから翌年の6月くらいまでですね。精神的にも体調的にもつらなくなって、レギュラー以外の仕事がまったくできなくなりました。パソコンの前に座ると気持ちが悪くて、とても執筆できるような状態ではなく、絵もまったく描けなくなってしまって。ここは思い切って休もうと、旅に出たり、好きなときに飲みにいったり、遊びの約束も断らずに出かけたり、久しぶりに心身を休めました。

PHOTO

――どのように復帰したのですか?

「そろそろ何か始めたほうがいいんじゃない?」と、ミュージシャンに言われ、一緒に始めたのが“朗読会”です。自分が書いたものを読んだり、音楽に合わせて即興で言葉を発したり、音楽に合わせて声色を変えてみたり。今までとは違うジャンルで、毎回お客さんとの一体感がものすごいのも醍醐味ですね。ひとりで来るお客さんも多く、帰りにはお客さん同士が仲良くなるケースがよくある、と聞くのもすごくうれしい。思いっきり休んだら、また新しいことが生まれたなと感慨深く思っています。

――それまで、全然休めていなかったんですね。

そうですね。私の友人にもいますが、今まで休憩なしでずっと働き続けていると、いくら「休んだほうがいいよ」と言われても、休むこと自体に抵抗があるんですよね。でも、そういう人には、言い方を変えて、「休むのも仕事だよ」って言うと、すんなり休めることもあります。休み下手ながんばりすぎな人たちに、このことは声を大にして、言いたいですね。私も、これから沖縄へ行くんですよ。また最近仕事を詰め込みすぎていたので、ちょっと海でのんびりしてきます。


PHOTO

最後に大宮エリーさんから
“美しくなるためのメッセージ”

2013年の「生きているということ」展では、「言葉のプレパラート」という作品をつくりました。いくつかあるプレパラートのなかから選んだものを顕微鏡にセットすると、言葉が浮かび上がってくるのですが、そのなかのひとつが「心のままに」という言葉。日々、心の声に耳を傾けて、その声を聞き逃さず行動することは大事ですよね。私は、体が欲した食べ物から心の声を聞いています。「揚げ物が食べたいってことは疲れてるんだな、少し休まなきゃ」とか、毎日のなかで、心の声を聞く訓練をすることで、いざというときの声を逃さないようにしています。

今月の美人
大宮エリー

作家、脚本家、映画監督、演出家、CMディレクター、CMプランナー。著書に、広告代理店勤務を経て、2006年に独立。映画「海でのはなし。」で映画監督デビュー。小説やエッセイ、詩集などを発表。主な著書に『生きるコント』『生きるコント2』(文春文庫)、『思いを伝えるということ展のすべて』(FOIL出版)『思いを伝えるということ』(文藝春秋)、 絵本『グミとさちこさん』(講談社)など多数。2015年6月には、初となる画集『EMOTIONAL JOURNEY』が発売。現在、週刊誌「サンデー毎日」、雑誌「DRESS」にて連載を担当。J−WAVEにてパーソナリティーとしても活躍中。 http://ellie-office.com/

Vol.36 BONNIE PINK

Vol.34 仲宗根梨乃


FEATURED ARTICLES

Sep 15th, 2016

HOW TO

ネイビーブレザー Vol.02

Vol.01のディテール解説に続き、Vol.02ではネイビーブレザーを着こなすスタイリングを提案。正統派にまとめるアイテムの組み合わ...

Mar 16th, 2017

HOW TO

ウォーターリネン ジャケット Vol.02

ジャケットを主役にしたコーディネートは、リネンの質感を活かすために、ウェアの素材をまとめて統一感のある着こなしを意識する...

Mar 2nd, 2017

ICON OF TRAD

Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。

サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...

Feb 9th, 2017

HOW TO

オックスフォード ボタンダウンシャツ Vol.01

トラッドの定番であるB.D.(ボタンダウン)シャツは、アメリカのブランド<BROOKS BROTHERS>創業者の孫であるジョン・E・ブルッ...

Mar 9th, 2017

HOW TO

ジップアップ パーカ Vol.01

氷雪地帯で生活をしていたアラスカ先住民のイヌイット民族が、アザラシやトナカイなど、動物の皮革でフード付きの上着(アノラッ...

Aug 17th, 2016

ICON OF TRAD

Vol.44 学生向きの靴という印象が強いローファーの奥深い魅力。

ローファーのシンプルな造りの中に散りばめられたディティールからは、この靴を愛用してきた人々の歴史や文化、ライフスタイルが...


YOU MAY ALSO LIKE