TRADITIONAL STYLE

Vol.14 穂積和夫


Oct 9th, 2013

Photo_Shota Matsumoto
Text_Takashi Abe

イラストレーター歴50年。日本におけるイラストレーターの先駆的存在であり、それと同時に日本のファッションを自身の目で見てきた穂積和夫さんにとって、イラストとは? そしてアイビーファッションとは? 御歳83の現役イラストレーターは、今日もイラストとアイビーをこよなく愛す。

イラストレーターなんて言葉はなかった。

ー 穂積さんは、幼い頃から絵を生業にしようと思っていたのですか?

穂積和夫 いやいや、違いますよ。大学を卒業して、建築会社に勤めていましたから。就職して1年くらいして、セツ・モードセミナーが開校したんですけど、会社に行きながら夜間に入学したんです。それも決して画家になりたいとか思ったわけではなく「素敵な絵を描いてみたい」と思ったから(笑)。

ー それからどのようにしてプロのイラストレーターになられたんですか?

穂積和夫 そもそも、その当時にイラストレーターなんて言葉はまだ存在してませんでした。デザイン画家とか言ってたかな。で、僕の場合は、夜間の学校に通ってる頃、服飾雑誌のファッションイラストを描くお手伝いというかバイトをしてたんです。会社に内緒で。当時ファッションイラストを描く人は数えるほどしかいなかったので、需要はかなりありましたね。で、建築の仕事をしながら、そんなバイトを2、3年やっていたんですけど、これで食ってけそうだなと思い、会社を辞めて、この仕事一本でやっていこうと決心しました。

ー 当時はやはりファッション雑誌でのお仕事だったんですか?

穂積和夫 そうですね。当時のファッション雑誌は、どこも規模が小さかったので、一人で雑誌一冊分のイラストを描いていましたね。なのでいろんなタッチで絵を描いていたし、僕が描きたいモノを逆に企画にしてもらったこともありますよ(笑)。車の特集とかね。

すべてはアメリカの雑誌から。

ー そんな穂積さんがファッションに興味をもったのはいつ頃でしょうか?

穂積和夫 1950年代ですかね。戦後GHQの一局として民間情報教育局(CIE)というのがあり、そこがCIE図書館というの日本全国に設置していたんですね。で、そこではアメリカの雑誌を読むことができたのですが、そこで見たサタデーイブニングポストやルックなどから、いろんな影響を受けました。サタデーイブニングポストといえば、ノーマン・ロックウェルが表紙のイラストを描いていたことで有名ですが、僕はそれをリアルタイムで見てましたからね(笑)。で、アメリカにこんな絵を描く人が沢山いるんだって驚いたのと同時に、日本はこんな国と戦争をしてたんだって気づかされました(笑)。

ー 戦後を知らないのでお聞きしますが、日本にとってアメリカは敵対国だったわけですよね?なのにアメリカのカルチャーに影響を受けるっていうのは問題なかったのですか?

穂積和夫 若い人たちはみんな同じようなことを聞いてくるんだけど、全くそんなことはなかったですよ。もちろん多くの人が亡くなったわけですから、誰もがそうだったわけではないですけど、少なくとも僕は悔しさとかなかったですね。なのでアイビーファッションに対してもすんなり影響されました(笑)。

見よう見まねの洋服を着てました。

ー アイビーファッションというのは、その名の通り、アイビー・リーガー(アメリカ東部の名門私立大学8校)がしていたスタイルだと思うんですが、このトレンドはどのようにして広まったものなのですか?

穂積和夫 元々アイビーファッションは、アイビー・リーガーの伝統的なスタイルで局部的なものだったんですが、アメリカのファッション業界紙で、アイビーファッションが紹介され、それによって全米に広まりました。僕もそれを見て「コレだ!」って思いました。それから僕はずっとアイビースタイルですね。もちろん当時の日本でアイビーなんて言葉は全く知られていませんでしたよ。

ー そんな日本でアイビーファッションの洋服は買えたんですか?

穂積和夫 もちろん買えませんでしたよ。売ってませんから。だから、知り合いの仕立屋にアメリカの雑誌に載っているBDシャツやスーツを見せて作ってもらってました。情報がないから、変なモノができてきたこともよくありましたね(笑)。そもそも、この時代にアイビーファッションから影響を受けた人なんて、僕と黒須君(くろすとしゆき氏)ぐらいしかいなかったんじゃないかな。僕達より早かったっていう人は、まだ聞いたことがありません。

VAN =アイビーではなかった。

ー アイビーファッションといえばVANを思い浮かべるのですが、その当時まだVANはなかったのですか?

穂積和夫 いや、ありましたよ。でも、まだその頃のVANはアイビーファッションって感じではなかった。一般の人が着る洋服というよりも、俳優さん達が着るような洋服を作ってましたね。それからアイビーファッションに変わったのは、1961年か1962年頃ですね。石津(謙介)さんがヨーロッパから帰ってきてからだと思います。それで日本でもアイビーファッションというものが一気に広まったんです。

ー 穂積さんもその頃VANを着てたんですか?

穂積和夫 着てましたよ。というか、他にそういったブランドが日本にはなかったし。アメリカにブルックス・ブラザーズというブランドがあったのは知ってても、それはアメリカの雑誌を見て知ってるだけで、日本にはありませんでしたからね。石津さんにも良くして頂いてたので、VANのイラストを描いた原稿料代わりにブレザーをもらったり、安く買わせてもらったりしてましたね。

僕の絵は、ゆるキャラではない。

ー VANでもイラストを描かれたりしていたんですね? それは今も描かれているようなカジュアルなタッチのものですか?

穂積和夫 そうですね。VANのポスターになったのは、写実的なものではなく、カジュアルな感じのイラストです。

ー 穂積さんといえば、やはりアイビー図鑑の表紙などに代表されるあのカジュアルなタッチのイラストだと思うのですが、あのテイストはどのようにして生まれたのでしょうか?

穂積和夫 さっきも話した通り、ファッション雑誌などでは色々なタッチのイラストを描いていたんですね。で、ある時、ファッションイラストの展覧会に参加する機会があって、どうせならユーモアのあるマンガっぽいイラストを描こうと思い、できあがったのが、あのテイストでした。で、その展覧会が終わって、作品を石津さんに差し上げたんですね。飾ってもらおうと思って。そしたら翌日に石津さんから電話があって「あのイラストをポスターにする」って言われたんです。それがVANとの大きな結びつきですね。あのテイストもずっと同じではなく、プロポーションなどをちょっとずつリファインして完成するのに10年はかかってるんですね。で、最近、あのイラストをゆるキャラだっていう人がいるんですけど、あれはゆるキャラではありません。プロがしっかりとコンセプトを作って、10年もかけて作り上げたものなので、ゆるキャラと一緒にしてほしくはないですね(笑)。

この仕事を辞めたいと思ったことはない。

ー 長年、仕事として絵を描かれていますが、辞めたいと思ったことはありませんか?

穂積和夫 それは全くないですね。これしか能がないですし(笑)。この仕事をしてから50年になるんですけど、今でも絵を描くことが面白くて仕方ないです。たまに昔の弟子たちと会うこともあるんですが、終始絵の話をしてますから(笑)。もちろん今でも仕事の依頼があるので絵を描いてますし、来年にはアイビー図鑑の第3弾が出るので、その準備もしています。

ー 失礼ですが、82歳とは思えないほどのバイタリティをお持ちですね(笑)。しかもフェイスブックもやられているとか。

穂積和夫 そう、やってますよ。今日もアップしてきました。今では600人位お友達がいるかな。できるだけ愚痴を言わないようにしてます(笑)。

H&Mでも買います。

ー とてもお元気な穂積さんですが、今でも洋服を買われますか?

穂積和夫 はい、買ってますよ。ただ僕の場合、ブランドを知らないし、全く興味もないので、見た目重視で選んでます。あとは価格ですね。だから俗にいうファストファッションのブランドも見たりしますよ。こないだもH&Mで買いました。ただユニクロで買うことはほとんどないですね。それは品質云々ではなく、単純に欲しいデザインがないから。欲しいと思えば何でも買います。

ー インターネットなどの通販を利用されたことはありますか?

穂積和夫 インターネットで買ったことはないですね。でも通販はありますよ。L.L.ビーンとかランズエンドとか。だから実物を見ないで買うということに対して、あまり抵抗はないですね。安くてデザインが良ければ(笑)。

俺がブランドだ。

ー 最後に座右の銘をお聞きしたいのですが。

穂積和夫 座右の銘ではないけど、僕の名言がありますよ、”俺がブランドだ”っていう(笑)。

ー それはどういう意味でしょうか?

穂積和夫 そのままなんですが、さっきも言ったように、ブランドには全く興味が無いんですね。というより、大事なのはブランドではなく、自分自身なんです。だからどんなブランドを着ているかなんてどうでも良いんです。フェラーリに乗りたいとか、ロレックスをしなくちゃいけないなんていうことに対しては、全く興味がありません。自分自身に自信をもち、しっかりと考えがあるのであれば、それだけで格好良いし、それがブランドだと思います。特に若い人たちには、一人ひとりがそういう気持ちを持ってもらいたいですね。そうすればフェイスブックで愚痴を書くことも減るんじゃないかな(笑)。

Vol.15 日野皓正

Vol.13 六代目 中村勘九郎


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