TRADITIONAL STYLE

Vol.41 大平貴之


Mar 16th, 2016

photo_shota matsumoto
text_takashi sakurai

投影星数2200万個のSUPER MEGASTAR-IIなど、プラネタリウム界のトップを走り続けるプラネタリウムクリエイター、大平貴之さん。彼が作り出す星空は、もはや模倣の域を超えて、創造の領域に突入しています。本人曰く、なりゆきでプロになったと言いますが、そんな彼だからこそ持ち続けているアマチュア精神が、プラネタリウムの多様性を生み出す秘訣。今後、よりエンターテイメント性が高まるという、大平さんのプラネタリウム作り。常に進化し続けるその根源に迫ります。

「“やりたい!”が詰まったプラネタリウム作り」

―― 初めて夜光塗料でプラネタリウムを作ったのは、小学4年生だそうですが、なぜプラネタリウムだったのでしょうか?

大平貴之 ちょっとクラスで浮いているような子供だったんです。みんなでワイワイなにかをやるというのが苦手でした。でも、そういうことに憧れはあったんだと思います。プラネタリウムを作ったのも、もしかしたら、それが原因かもしれません。綺麗なものを作れば、自然と人が集まってくるんじゃないかって。幼心にそういう予感があったんでしょうね。

―― 小学生の時に、当時素人が作るのは不可能と言われていたレンズ式のプラネタリムを作ろうとしていますよね。その時に、いろんなレンズメーカーに片っ端から電話をして、レンズを手に入れようとするエピソードが著書に書いてありましたが、子供とは思えない行動力だなと思ったんですが。

大平貴之 とにかく欲しくて仕方がなかったんですよ。

―― でも、当然、断られたりもするわけじゃないですか。

大平貴之 まあ、ひとつダメでも次に行けば良いんですよ。別に断られても、こちらが損することはなにもないですしね。

―― 普通の子供だったら、そこまでのガッツはない気がします……。というか、子供の頃にそこまでして欲しいと思うものがなかったかもしれません。

大平貴之 例えばゲームソフトとか、いわゆる普通の子供が欲しがるものは、きちんと子供が手に入れられる流通に乗っていたと思うんです。でも僕が欲しかったのは、たまたまそういう流通に乗っていないものだった。だから、こういう特殊なアプローチが必要になったんでしょうね。

―― そういうゲームとか、周りで流行っていたものには興味はなかったんですか?

大平貴之 そもそも、なにが流行っていたのか思い出せないくらいですからね。

―― 中学生になると、ロケットに夢中になりますよね。

大平貴之 興味を持ち始めたのは小学生の時ですね。化学実験に興味があって、そういう本を読んでいると、黒色火薬の話とかが出てくるんですよ。最初は線香花火とかを作っていたんですが、それでは物足りなくなって、やっぱりロケットを飛ばしてみたいなと。

―― 今の子供たちって、なにをやったら良いのかわからない子が多いなんて言われたりもしますよね。大平さんは、それとは逆に、次から次へと興味の対象を見付けていって、そこにグッと入り込んで行く印象があります。

大平貴之 今は、僕が子供だった頃にくらべて、すごくたくさんの情報を得ることができますよね。

―― インターネットですね。

大平貴之 そうです。情報欲が結構高い水準で満たされているから、逆にそういうものに貪欲になれないのかもしれませんね。

―― では、大平さんが子供時代にインターネットがあったら、もしかしたらプラネタリウムを作っていない可能性も?

大平貴之 うーん。それはなんとも言えませんが、もしかしたらすごいアプリを開発するとか、そっちの方に進んでいた可能性はありますね。でも、プラネタリウムというのは、いろんな技術の結晶なんです。物理も機械も光学も。そういう風に、どんどん興味の対象が枝分かれしていって、増えて行く。その感じが好きだったので、やっぱりプラネタリウムを作っていた気がしますね。

―― プラネタリウムを軸にして、広がって行く感じですか。

大平貴之 そうとも言えますが、プラネタリウムを作るということを口実に、いろんな方面に手を出せたとも言えますね。自分が興味のあることを全部一気に出来そうだったのがプラネタリウムだったんです。

―― ちなみに、そういう興味がファッションの方に向いたことはあるんですか?

大平貴之 人前に出るようになってからは、以前よりは気にするようになりましたが、夢中になったことはないですね。普段はシャツにジーンズのような、着ていて楽な格好だったり、作業するときには汚れてもいいものを選ぶくらい。ただ、ビジネスミーティングに行くときには、ファッションの重要性を感じます。こちらがビシッとスーツで決めていると、私服の時に比べ、面白いほど相手の対応が違うんですよ。やっぱりファッションって第一印象ですからね。

「プロとアマチュアの違い」

―― プラネタリウム開発は会社に入ってからも続けていたんですよね。仕事との両立って難しかったんじゃないですか?

大平貴之 仕事終わりと休日を使えばある程度時間は作れますからね。それは学生の頃も同じでしたから。学生の頃から一番変化したのは、給料がもらえるということ。これは大きかったです。

―― 開発資金が潤沢になったと!?

大平貴之 そうなんです。学生の頃はお金がないから、金属の部品などは自分で削って作ってたんですよ。それが、会社員になってからは、プロに発注すれば、精度の高い部品が手に入るようになった。これは大きかったですね。

―― それまではいわゆるアマチュアですよね。プロとしてやっていこうと思ったきっかけはなんだったんですか?

大平貴之 いや、プラネタリウムで食っていこうなんて思ったことはなくて、どちらかというとなし崩しですね。ロンドンでメガスター(投影星数が150万個という従来の100倍の性能)を発表したあたりから、イベントの引き合いとかが増えてきて、仕事と両立するのが難しくなってきたんです。

―― 大平さんにとって、プロとアマの差ってなんだと思いますか?

大平貴之 それはよく考えるテーマですね。少なくとも、プロが優れていて、アマチュアのほうが下だとはまったく考えていません。目的が違うんだと思います。プロは大前提として、お客さんを満足させなければいけない。アマチュアは自分を満足させるのが、第一です。

―― なるほど。でも一般的には、プロのほうが優れているものを作っている印象があるんですが。

大平貴之 やはり多くの人を満足させるのは生半可なことではありませんからね。それとプロはそれによって収益をだせるので、より多くのお金をかけることができるというのも大きいかもしれません。マンパワーも確保できますしね。でも、プロの場合はニーズに最適化していくことになります。アマチュアの場合はその縛りがないですから、突拍子もないことをやれたりするんですよ。

―― ある種、アマチュアのほうが制限が少ないんですね。

大平貴之 そうですね。だから、アマチュアのほうが、プロよりも革新的なものを生み出しやすい環境にあると言えるかもしれません。だからこそプロになった今でも、そういうアマチュア精神は絶対に無くしたくないなと思っています。

―― そうなると、大平さんの探究心を満たすにはアマチュアのほうが向いているんじゃないですか? プロになった今、そういった気持ちと折り合いはついてますか?

大平貴之 アマチュア精神だけだと井の中の蛙になってしまう気がします。でも、プロになればたくさんのお客さんの反応を見ることができますからね。僕がアマチュア精神を発揮して作った物が、人に喜ばれるのはとても嬉しい。人に喜ばれたいというのは、プロ精神ですから。うまく折り合いがついている状態だと思いますよ。

―― お客さんから、思いがけない反応が出たりもするでしょうしね。

大平貴之 そうなんです。僕が作ったプラネタリウムに来たカップルが「星空が素敵すぎて、結婚したくなっちゃいました」と言ってくれたりするんですよ。僕は、そんなこと全然考えないで作っていましたからね。いかに性能を上げるか、とかそういうことばかり考えていた。でもお客さんのそういう反応を知ると、刺激になるんです。

―― 自分が思いもよらなかった捉え方をしてくれると。

大平貴之 はい。他にもコンサート会場でプラネタリウムを使いたいと、アーティストから声がかかったり。プロとして様々な人に見てもらうことで、プラネタリウム自体の可能性も広がっていく感じは、やっぱりアマチュアでは難しいですからね。

―― いろんな人に見てもらいたいという思いは、子供の頃から変わっていないんですね。

大平貴之 そうですね。原動力はそこにあると思います。

「町まるごとプラネタリム構想」

―― 大平さんの最新のプラネタリウムは、どのくらいの数の星を投影できるんですか?

大平貴之 2200万個ですね。でも技術レベルで言えば10億個の星を投影することも可能です。

―― 10億個!? 肉眼で見える数っておよそ4300個だと言われていますよね? ということは、大平さんが作るプラネタリウムでは、実際に肉眼で眺める星空よりも、多くの星が見えていることになります。そんなにたくさんの星を映し出す意味ってなんでしょう?

大平貴之 見えない星は見えないままに投影しています。そうすることで、より奥行きのある星空を再現できるというのが技術的な面。でも、僕としては、夜空には本当に沢山の星があるんだということを、より多くの人に実感してもらうために、数に挑戦しているところはありますね。

―― 自分が生み出した星空と、本物の星空、どちらが美しいと思いますか?

大平貴之 それは、もちろん本物の夜空です。ただ、プラネタリウムは、自然の星空では不可能なことができる。

―― 時間を早回ししたり、星座の図形を出したり。

大平貴之 そうですね。だから、本物の星空をテーマにはしてますが、そこに人間ならではの加工をすることによって、成り立つのがプラネタリウムです。食べ物で言えば、そこには天然食材と、料理ぐらいの差があります。

―― なるほど。プラネタリウムは、模倣ではなく、もっとクリエイティブなものなんですね。

大平貴之 僕はそう捉えています。

―― お話を伺ってきて、大平さんは、技術者とクリエイターの両方の面を持っていると思うのですが、10億個の星が投影できるようになった今、技術者としてもっと多くの星を投影できるようにしたいのか、よりクリエイティブな方向に進みたいのか、どちらの気持ちが強いのでしょう?

大平貴之 数は10億個くらいで良いのかなと思っています。それこそ、銀河系だけで1000億個の星があるので、それを追っていってもきりがない。今考えているのは、より多くではなくて、より大きな空間に映すこと。

―― どのくらいの空間ですか?

大平貴之 今、世界最大のプラネタリウムは直径35メートルなので、自分としては直径1キロメートルくらいのドームを作って映してみたいですね。

―― ちょっとした町ぐらいの規模感ですね……。

大平貴之 技術的には可能なんですけどね。

―― 可能なんですか!?

大平貴之 はい、実験済みです。遠くの建造物の壁に映してみたんですが、2キロメートルくらいだったら問題ないですね。どちらかというとそれを映すドーム状の建築の方が難しいのでしょうが、それも技術的には可能だと思いますよ。問題はコストですね。

―― すごいスケール感の話ですね。

大平貴之 例えば、アミューズメントパークを巨大なドームで囲って、そこに星空を投影したら……。

―― とんでもないエンターテイメント性ですね、それは。

大平貴之 星空を映すだけではなく、瞬時に昼にしたり、夜にしたりもできるようになりますよね。

―― 映すものによっては新しい映画の形、なんてものも見えてくるかも知れませんね。

大平貴之 これまでのプラネタリウムは町の中にありましたが、未来の世界では、プラネタリウムの中に町がある。そこまで行ってみたいですね。

今月のトラディショナル スタイル
大平貴之

小学生の頃からプラネタリウムを作り始め、大学時代にはアマチュアでは例のないレンズ投影式プラネタリウムを製作。1998年には、会社勤務の合間を縫って製作した、150万個の星を映す「MEGASTAR」をIPS(国際プラネタリウム協会)ロンドン大会で発表。世界中で話題となる。愛知万博など各地での移動公演の他、松任谷由実など一流アーティストなどとのコラボも実現。プラネタリウムの新たな可能性を示す。最新の「MEGASTAR-FUSION」は、光学式とデジタル式を融合した画期的なもので、「かわさき宙と緑の科学館」に設置してある。

Vol.42 西畠清順

Vol.40 佐々木俊尚


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