TRADITIONAL STYLE

Vol.42 西畠清順


Apr 13th, 2016

photo_shota matsumoto
text_maho honjo

世界中の辺境地を訪ね、まだ人々に知られていない植物を探して運ぶ、プラントハンターと呼ばれる人がいます。その日本代表といえるのが、西畠清順さん。赴く先は、アジア、アフリカの熱帯雨林からイエメンの砂漠地帯、オーストラリアの湿地帯、メキシコやアリゾナの乾燥地帯まで! そんな彼の手によって集められた120種以上の植物が共生している、東京・代々木「そら植物園」の活動拠点がある代々木VILLAGE。ちょうど芽吹きの季節を迎えている都会のオアシスにて、ゆったりとお話を伺いました。

自分は天才だと最初からわかっていました(笑)

―― あらゆる植物を求めて、世界中を飛び回っている清順さんですが、「プラントハンターとは何をする人なのか」について、あらためて教えていただけますか?

西畠清順 この職業は17世紀ごろからあって、王族や貴族のために植物を探しに行き運んでくる人たちのことを、そう呼んでいたようです。俺も王族や貴族から頼まれることもあるし、それが政府や企業になることもあるし、華道の家元やフラワーアーティストになることもある。どちらにしろ、いわゆる流通には乗っていないもの、規格外の木だったり珍しい花だったりを、自分の体を使って大自然を相手に探しに行き、オーダーしてくれた人のもとへ届ける。それが俺の仕事ですね。

―― 植物のプロを顧客にもつ「花宇」という植物卸問屋に生まれてらっしゃいます。

西畠清順 小さいときから「『花宇』が続くためには、あんたが日本一にならなあかんねんで」と言われて育ちました。だから跡を継ぐと決めたとき、「ならば、世界一の植物を扱おう」って決めたんですよ。20代の生意気盛りでね、「世界の天才と仕事がしたい。だから俺は世界レベルの植物を扱う」って。

―― ずいぶんと大きく出たんですね!

西畠清順 修業時代は必死でした。今、15年のキャリアですけど、最初の8年はずっと山ごもり。ひとつの仕事に対して、ひたすら早くひたすら質の高いものを取ってくる、その繰り返し。で、始めてみて、すぐに感じたのが「俺、天才ちゃうかな」ってこと。自分には天性の勘と特別なセンスが宿っているとわかったんです。ただその態度が周囲にも伝わっていき、「生意気や」とどつかれて、毎日泣いていたこともありました。

―― 泣いていた日々があったなんて信じられません。

西畠清順 あ、悲しくて泣いてたんじゃないですよ。「こいつら、いつかシバいたる」ってやつです(笑)。

―― 修業時代は、人の倍速で仕事を覚えていったとか?

西畠清順 倍速じゃなくて、10倍速です。人が10年かかることを1年で覚えたし、200年かかることを20年、いや10年、5年で到達しないといけないと思っていたから、今何をすべきか、何を判断しなくちゃならないのか、それが自然と鋭くなっていったんですね。

―― そういう判断力はどうやって磨かれていったのでしょうか?

西畠清順 プロの中でもトップのプロを相手にしているという緊張感ですよね。「花宇」は、歴史を背負っている生け花の家元や、時代のトップを走るフラワーアーティスト、世界に名を馳せるガーデナーたちが顧客で、彼らが納得するものを提供しないと食っていけないわけです。そういうごまかしのきかない人たちを相手にするには、彼ら以上の知識をもって商売するのがあたり前。そこでずいぶんと鍛えられました。一般の人に植物を売るのは簡単ですが、プロに物を売るって、とてつもなく大変なことなんですよ。

あたり前は、あたり前じゃないのがあたり前。

―― プラントハンティングは、僻地での困難な作業も多いですよね。その現場で大切にしていることは何ですか?

西畠清順 頭をやわらかくすること。そして人間力を高く保つことですね。窮地に陥っているのに言葉の通じないアルゼンチン人のお兄ちゃんしかいないとか、ジェネレーションギャップのあるおじいさんを口説かないとあの枝を切らせてもらえないとか、どうにもわかり合えそうにない人たちとチームを組まないと輸出の許可が下りないとか、そんなことばかりなんですよ。

―― 頭をやわらかくするためにはどうしたらいいんでしょうか?

西畠清順 あたり前をつくらないこと。今、目の前にある日常はあたり前なんかじゃないと知ること。たとえばモロッコでは、朝起きたら「さて、今日は俺の100頭のラクダにどこの草を食わせるかな」と思うのがあたり前の人もいる。となると、日々満員電車で通勤するのがあたり前というのは、世界から見れば超少数。あたり前って、あたり前じゃないのがあたり前なんですよ。俺も含めて、大人の90%はあたり前を間違って解釈してるんじゃないかな。

―― では、人間力を高く保つためには?

西畠清順 好きなことに情熱を燃やすこと。俺の場合はそれがもちろん植物で、どんな現場に行っても、そこで何があっても、俺は植物が好きでどうにかしたい! という熱量を相手に見せれば、その思いが共通言語になって、突破口が開けたりするものなんですよ。

―― 清順さんの場合、その風貌も味方してくれそうです。

西畠清順 このちょんまげスタイルや、「清順」という名前、「花宇」という屋号、そして尊敬するコピーライターの糸井重里さんにも太鼓判を押してもらった「そら植物園」という屋号。それらすべてに助けてもらっている、支えてもらっているという気持ちはありますね。

若者よ、その野生を目覚めさせよ。

―― 以前、NHKの番組で「どんな人のなかにも必ず野性がある」とおっしゃっていました。その言葉が気になっていて、もう少し詳しく教えていただきたいのですが。

西畠清順 あれはね、今の若者に「ふにゃふにゃすんなよ」って言いたかったんです。それを少し聞こえよく言い換えたというか。

―― 現代人に向けたメッセージだったんですね。

西畠清順 今の子供が大人になったらどうなるのかなと、ふと考えるんです。デジタルの世界に興味はあるし、最先端テクノロジーを否定したいわけでもない。そこじゃなくて、木登りひとつできない、きれいな花に目がいかないとなったら、それはやっぱりまずいんじゃないかと。自分に子供が生まれたとき、「何をやってもいいから、『何が大事か』をわかる人になってほしい」って思ったんですよ。それをわかりやすく伝えたいと思ったら「野性が眠ってるんちゃうか」という言葉になったという。

―― 確かに「何が大事か」は、感じられる自分でいたいです。

西畠清順 毎日走っていたマラソン選手が一週間休むと、次走り出したときに何かがズレてる感じがするらしいんですよ。野球も、毎日振ってたバットを3日振らずにいると変になる。野性も一緒で、植物と触れ合ってたら人間らしく過ごせるものが、コンクリートの中でずっと仕事をしていたら、やっぱりどこかおかしくなると思う。だって本来人間は、裸で野道を歩いていたわけですから。

―― “野性”ですね。

西畠清順 俺の場合、山や森にこもっていると野性がビンビンになります。木に登ったら、どこに枝が生えてるかなんて見なくてもわかる。だからそこに足を伸ばして先に進むだけ。そういう感覚が体に乗り移ることって、人それぞれ、大なり小なりあると思うんです。野性ってそうやって芽生えさせるものなんじゃないかと。

―― すごく大切なことですよね。自分の野性、もっと芽生えさせたいです!

西畠清順 大人ほど、全員口をそろえてそう言いますよ。否定する人はだれもいない。だから俺も安心して言い続けられるんです。

たくさん休みをもらえたら…ちょっとヤバいですね。

―― 少し話を変えて、ファッションはどんなものが好きですか?

西畠清順 うーん、まったくこだわりがないです。自分がかわいいな、好きだなと思ったものは1秒でわかるから、それを買うだけ。ホームセンターからハイブランドまで自分が着たいなと思ったらそれを買います。

―― ホームセンターからハイブランドまで!

西畠清順 ファッションブランドってすべて洗練されてますよね。最近、仕事で関わることも増えて、そのフィロソフィーまで聞く機会も多いのですが、「みんなええこと考えとるやん」って驚いて、「それぞれにがんばっとるんやな」と唸って、「どれもすごいわ、以上!」ってなって、選べなくなる(笑)。俺は洋服に詳しくないから、目に飛びこんできたご縁のある服を着てます。

―― さて、1年間お休みが取れたら何をしますか?

西畠清順 ええーっ? 休み? 死ぬやろな…おれ、死ぬんちゃうかな?

―― 質問を間違えたようですね、すいません(笑)。

西畠清順 休みをもらったら…って考えたことないですね。走っていないとダメなんですよ。いや、のんびりするのは好きなんですよ。でも自分の場合、「どう生きていくか」が仕事と重なっているので、その自分の生き方ができなくなると考えたら…やっぱりヤバいですね(笑)。

4億5千年前に植物が生まれていなければ、今の世界はない。

―― あらためてですが、清順さんにとって、植物はどんな存在なのでしょうか?

西畠清順 うーん、わからないです。だって、俺にとって植物ってすべてなんですよ。

―― えーと、それはどういう意味なのでしょうか?

西畠清順 俺が食べていけるのは植物のおかげだし、今夜温かいお布団で寝られるのも、欲しい車があったら買えるのも、すべては植物のおかげです。人間関係もそうで、俺の人生で出会う99.9%の人は植物がきっかけ。お金儲けを教えてくれるのも、人と出会わせてくれるのも、さらに危険な目に遭わせてくれるのも植物です。

―― 危険な目も。

西畠清順 思い出したらキリがないですけど、20代のほとんどを畑と山の中で過ごしてたので、アシナガバチに10カ所以上一気に刺されて緊急搬送されたこともあるし、ボルネオでアリの大群に襲われて、全身に針が刺さったみたいな痛みを感じながら一昼夜寝込んでいたこともありました。

―― ビジネスチャンスも試練も与えてくれるのが、植物なんですね。

西畠清順 親であり、恋人であり、儲け話をくれるおっちゃんであり、恐ろしいヤツでもある。そういう意味ですべてなんです。ちなみに、植物がすべてっていうのは、俺だけの話じゃないですよ。ここにいるみなさんにとっても同じです。

―― 私たちもですか?

西畠清順 生命が生まれたのは、4億5千年前に地球上に植物が生まれたからです。芸術も、経済も、宗教だって、すべては植物がなければ存在しない。だから、アーティスト、デザイナー、建築家、教育者、政治家、医療関係者…この「そら植物園」ができて、いろんなジャンルの人と仕事をするようになったけど、植物はそれらのジャンルすべてを網羅しているんです。植物がなければ、今はない。今日どこかで起きている戦争も、今朝自分が電車を乗り過ごしたことも、だれかがどこかで「お誕生日おめでとう」とお祝いされていることも、植物が生まれてなければ、すべてないことなんです。

―― 植物はすべての源なんですね。うーん、遠い目をしてしまいます。

西畠清順 でもこれって、あたり前の事実を言っているだけなんですよ。壮大な時間のスケールとともにあるのが、植物というジャンルなんですよね。

今が究極で、すでに完成形です。

―― では、これからの最終的な「夢」について教えてください。

西畠清順 今のまんまずっとやれたらいいなって純粋に思ってます。好きな植物でごはんが食べられるだけでも満足なのに、自分の扱う植物を待ってくれてる人々が今も大勢いるわけですから。俺からすると、今が究極でもう完成形なんです。だれかが必要としてくれる限り、ただひたすら淡々と、大好きな植物で応え続けていけたらいいなと思ってます。

―― それはちょっと意外な答えでした。

西畠清順 そういえば昔ね、ラングラーというジープを雑誌で見て、欲しくて欲しくて仕方なくて、でも当時の俺にとってみれば、天文学的な金額に思えて手が出なかった。そのとき「いつか乗ってやる、これを夢にしよう」って決めたんです。で、月日は流れ、好きなことを仕事にしていたら、ある日ふと「ジープ乗りたいな」と急に思いついて、家から一番近いディーラーに電話して、「白いラングラーがあったら買うから」って電話して、現物も見ずに衝動買いしたんですよ。で、夕方に納車されて運転しながら「あ、そういえばこの車、昔の夢やったかもなぁ」って気がついたんです。

―― ということは?

西畠清順 要はね、10年後、20年後、50年後、自分の努力次第で、どんなすごいところに到達できるかなんてわからない。今は夢だと感じることでも、もしかしたらそれをラクラクと超越した場所に到達しているかもしれない。そういう意味で、「夢」なんて今の自分ごときが決めるもんじゃないよな、って思うんです。

―― 限界を設けず、さらに高みに上るんですね。では最後に、もうプラントハンターなんてやめてやると思ったことはあるのでしょうか?

西畠清順 実は一度、まだ若いときにいろいろあって家出したことはあります。理由は、話せば明日の朝までかかりますから勘弁してください(笑)。でもそのとき以外はない。植物を始めたその日から「俺、天才や」と思っちゃった人間なんで。プラントハンターとして生きてきて、人生いいことばかりが起きている。これ以外のことなんてね、逆におそろしくて俺には考えられないですよ。

今月のトラディショナル スタイル
西畠清順

1980年生まれ。幕末より150年続く花と植木の卸問屋、花宇の五代目。日本全国、世界数十カ国を旅し、収集している植物は数千種類。日々集める植物素材で、国内はもとより海外からの依頼も含め年間2,000件を超える案件に応えている。2012年、ひとの心に植物を植える活動「そら植物園」をスタートさせ、植物を用いたいろいろなプロジェクトを多数の企業・団体などと各地で展開、反響を呼んでいる。5月20日には、知らなきゃ恥ずかしい、植物にまつわる常識を紹介する著書『はつみみ植物園』(東京書籍)が発売予定。
Instagram https://www.instagram.com/seijun_nishihata/

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