ICON OF TRAD

Vol.21 一流の政治家が愛用する白シャツから我々が学ぶべきヒントは多い。


Aug 6th, 2014

Text_Shuhei Tohyama
Illustration_Yoshihumi Takeda

あらゆるコーディネイトにマッチングする白シャツについての考察です。第41代アメリカ大統領のジョージW.H.ブッシュの着こなしを参考に、遠山さん自身も白シャツをオーダー。コーディネイトや着用時のヒントを、政治家のスタイルから学びましょう。

白いシャツをファッションする

服飾評論家の先輩にあたる出石尚三が約30年以上前に書きおろした『ダンディズムの肖像』(冬樹社)は、今読み返してもさまざまな刺激を受ける素敵な文章に満ちている。その本のなかで出石は、ファッションという言葉を流行と訳すのは断じて間違っていると力説する。ファッションの語源はラテン語のfactionであり、その意味は『工夫する、処理する』ということなのだそうだ。

そこで電子辞書のキーを叩いてみると、確かに動詞の項目で『創り出す』という意味が載っていた。なるほど。すでに出来合いのモノを身につけて「最新でござい」などと得意がっているのは、ファッションの退廃であることが少し理解できた。そこで白いシャツを購入してみることに。というのも「アメリカからインディビジュアライズドシャツのジェームス・ヘイサー社長が来日するから茶飲み話でもどうかな」というお誘いの連絡があったのだ。ひとつ白シャツをファッション(工夫し創造)してみるかと思った次第である。

パパ・ブッシュの白いシャツ

白シャツをオーダーメイドするにあたって、もっとも重要なのは、どんなシャツをつくるかを想像することだ。筆者がイメージしたのは第41代アメリカ大統領のジョージH.W.ブッシュ、通称パパ・ブッシュである。

たしかにイタリアの白いシャツは良く出来ていて快適なものだ。たとえば白いドレスシャツにライトウエイト・ウールのパンツなどという軽快な装いでキメるときは、イタリア製シャツに匹敵するものは少ないと思う。シンプルでエレンガント、しかも適度な色気もある。だがこの手のシャツは、今の日本の市場にあふれている。逆にパパ・ブッシュのようなストレートに男っぽいシャツは、日本では見つかりにくいものだ。だからこそオーダーする価値があるのではないだろうか。

最近は高学歴なだけで、洋服のことを少しも知らないのに、自身のキャリアアップのためだけに社長になった人が増えてきた気がする。しかしジェームス・ヘイサー社長は、とても気さくで、しかも現場あがりの人だから安心した。ジョージ・ブッシュ親子が2代に渡ってテキサスの老舗メンズクロージングストアでシャツをオーダーしていること。そのシャツがじつはインディビジュアライズド・シャツで製作していることなどを明かしてくれた。

合理的なアメリカ人の経営者らしく、すぐさまノート・パソコンで、パパ・ブッシュの画像検索を開始。「カフスはダブルとシングルのラウンド型の両方を愛用しているらしいよ、どっちにする」とか「シャツの前立てはネクタイを締めているので今は分からないから、担当者に正確なディテールを確認する」などと、親切に応じてくれる。筆者はとりあえずスクエアカットのダブルカフスでカフスのホールがやや前方へ寄ったものを選択し、細かなディテールはおまかせすることにした。ただし白いブロード生地は、ジェームス社長の「彼はいつもこの生地の束から選んでいる」というひと言で、最上等のレンジから選ぶはめになってしまった(泣!)。


WASPのスタイルを知る

ジェームス社長からさまざまなパパ・ブッシュの画像を見せてもらいながら感じたのは、元大統領はこの白いシャツを、必ずスーツを着てネクタイを締めることを前提に作っているということだ。100枚以上もの写真のなかで彼が、白いドレスシャツ1枚でいるものはなかった。カジュアルなオケージョンではシャツ1枚の写真もあるが、その場合はインディビ製のチェックのボタンダウンシャツなど、スポーティなものを明確に着分けている。たまにドレスシャツにノータイの姿もあるが、そのときはジャケットかブレザーを着ているし、シャツは無地の色付きかシンプルな縞に替えている。

Vゾーンを絵画に譬えると、スーツは額縁、シャツは背景の色、絵のカラーアクセントはネクタイということになろう。パパ・ブッシュの着こなしをこの定義に当てはめて解説すると、スーツ(額縁)はダークブルーの無地かミディアムグレー地の縞。シャツ(背景)は、ほとんどが白のレギュラーカラーで、ときにダブルカフスを愛用する。そしてネクタイ(カラーアクセント)は、バーガンディ地のストライプということになる。つまりパパ・ブッシュにとっての白いドレスシャツとは、ダークスーツとバーガンディのストライプタイを絶妙につなぎ、絵の主役である本人を引き立てる道具のようなものなのである。
イタリアのシャツのように主張しすぎてはいけないし、かといって作業シャツのように無骨すぎてもドレスの調和をこわすことになる。

まったくパパ・ブッシュという人は、なんてWASP(ホワイト=白人、アングロサクソン、プロテスタントの略)の伝統的な着こなしに忠実なのだろう、と関心してしまった。日本ではトラディショナルをツイストしたJ.F.ケネディだけが持て囃されるが、正統さでいえばパパ・ブッシュであろう。

政治家は演出法も一流だ

おまけに彼は小物の使い方もたくみだ。とくにメタルフレームの眼鏡がいい。非の打ちどころのないスーツ姿。誠実そうな広い額とヘアスタイル。そこに知性的なメタルフレームの眼鏡とくれば、絵にかいたように理想的な大統領が現出する。湾岸戦争時、米国の大衆の支持率が80%を超えたのも、うなずける見事な演出能力といえよう。

昔から一流の政治家は、あらかじめ結論が分かっている社会の諸問題を、いかにも台本が決まっていないかのようにあれこれ演出して、国民をときに動揺、ときに安心させ、さらには暴動が起きない程度に怒らせ、でも結局は最初の結論通りに導いてしまう術に長けていたものだ。そういう意味で、著名な政治家ほど役者以上に芸達者で、またスタイルのある着こなしをしている人が多いのである。

パパ・ブッシュしかり。ターンブル&アッサーの白いドレスシャツに、水玉のボウタイとシーガーというウインストン・チャーチルもその代表。彼の堂々たる身のこなしは、ドイツの空爆にさらされた英国民に安心感を呼び起こしたという。

ただしお断りしておきたいのは、政治家の着こなしの多くは、海外セレブのファッションスナップのような、最新トレンドの参考にはならないということだ。むしろ流行とは無関係な部分、つまりスタイルを参考にしていただきたいのである。

たとえばフランスの元大統領ミッテランは、いつも少し大きな衿の白いシャツに、トレンドとは無関係のストライプタイを締め、靴はブラックラピド製法のJ.M.ウエストンであった。しかしこのオッサンぽい着こなしが、逆に国民のなかに愛着心を生んだのである。

そこで思い起こしたのが、失礼ながら骨相もヘアもミッテランに似ている舛添都知事のこと。彼のような頭の良い人が、服装もバッチリとキメたら、シャープすぎて厭味になってしまう。あえて木訥に、白いシャツで通せば、少なくとも我が家の支持率はアップ!

ウエルドレスというのは、社会という舞台のなかで自らを演出する能力でもある。しかしファッションスナップを鵜呑みにし過ぎると逆に痛い目にも合う。むしろトレンドを追わず、流行が落ち着いた頃にようやくそれを身につけて自分のモノにするくらいのほうが、ファッション的には高度な思想だ。そうした意味で、政治家の白いシャツから、我々が学ぶべきヒントは多いはずである。


Navigator
遠山 周平

服飾評論家。1951年東京生まれ。日本大学理工学部建築学科出身。取材を第一に、自らの体感を優先した『買って、試して、書く』を信条にする。豊富な知識と経験をもとにした、流行に迎合しないタイムレスなスタイル提案は多くの支持を獲得している。天皇陛下のテーラー、服部晋が主催する私塾キンテーラーリングアカデミーで4年間服づくりの修行を積んだ。著書に『背広のプライド』(亀鑑書房)『洒脱自在』(中央公論新社)などがある。

Vol.22 ローレン・バコールの弔報を知り、 懐かしのコンポラ・スーツを思い出した。

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