食べて「発見」。

未知の中国、食べさせます。


Jun 29th, 2016

text_junichi kobayashi
photo_tamon matsuzono

…いやはや、中国って広いなぁ。そんな思いにどっぷり浸れるお店を今回はご紹介しましょう。その名は「matsushima」。代々木上原駅から歩いて2分、小さな飲食店がごちゃっと入る建物の地下1階で、若干こっそりめに営業しています。入口は、細い階段を降りた先にデンっと構えるプッシュボタンのナンバーロックが取り付けられたゴツいトビラ。一瞬たじろぎますが、大丈夫。取っ手を持って引けば開きます(笑)。

SHOP INFO
matsushima
TEL:03-6416-8059
住所:東京都渋谷区上原1-35-6 第16菊地ビル B1F
営業時間:18:00~24:00(日祝は17:00~23:00)
定休日:水曜日
12席(カウンター4席、テーブル8席)

「めずらしい紹興酒と、少し変わった中国郷土料理、やってます」

看板代わりの黒板にチョークで書きつけられた謳い文句を諳んじながら、なんだかとってもワクワクしつつ、席に座ってみましょうか。

料理を繰り出すのはオーナーシェフの松島由隆さん。料理長として活躍していた「黒猫夜六本木店」を卒業し、今年(2016年)の3月に奥様と2人でこの店をスタートさせました。黒板にびっしりと書かれた品書きを眺めると「黒猫夜」でもお馴染みのメニューもちらほら。

例えば、トップ画像で黒米の紹興酒とともにテーブルに鎮座している「黒酢の酢豚(1,300円)」も、数々のファンを魅了し続けている“黒猫名物”です。

この酢豚、茹でたり蒸したりして柔らかく下ごしらえした豚の三枚肉の塊を、表面がクリスピーになるまで油で揚げて、黒酢のタレで調味した一品。

弱火で煮詰めながら酸味と甘味がともに頂点に達するポイントを探って仕上げるという黒酢のタレと、とろとろの豚肉のうま味とが重なり合って実に美味。尋ねれば、この料理は豚の三枚肉を甘辛いタレに浸しながら蒸す東坡肉(トンポウロウ)と、豚のスペアリブを揚げて甘酢のタレで煮る糖醋排骨(タンツウパイクウ)にヒントを得たのだそう。

暮らしに根ざした中国各地の郷土料理の数々

「まぁ創作料理です」。
松島さんはそう言います。確かに「創作料理」かも知れません。しかし自らで現地をしっかりと取材したうえで織り成す創作料理だから、どの料理を味わっても、松島さんが肌で感じた現地の暮らしぶりが、舌の上からぞわぞわと感じられるのです。

例えば「新疆ウイグル自治区 手抓飯(1,200円)」。彼の地では「ポロ」と呼ばれる、いわゆる炊き込みごはんです。羊、たまねぎ、にんじん、レーズンを一緒に炊き込むというのが現地での王道なのだとか。松島さんは当初は現地のままのレシピにのっとって作ってみたものの、いまひとつ商品力が高くない…。というわけで、発芽大豆ときのこを加えて、蓮の葉に包んでみたといいます。そうやって、自分で取材してきた情報に、少しずつ“編集”を加えて料理を完成させるのが松島流。

「ポロ」には必ず薬味が3種添えられます。ヨーグルトと乾燥した唐辛子、そしてクミン。現地ではそれらの薬味を全てグチャッと混ぜて食べる、というわけです。試しに薬味を混ぜずにそのまま食べると、羊の香りとうま味とが全体を支配する味わいで、もちろん美味しいのですが、若干ボヤッとした印象…。ですが、薬味をすべて混ぜ合わせてもう一度口に運んだ瞬間に、驚愕の美味しさが舌から脳みそに信号を送ります。ヨーグルトの酸味と唐辛子の辛味とクミンの香りがそれぞれ主張するのですが、実にバランスの良い味わいへと瞬時に変化するのです。…いやぁ、新疆ウイグル自治区の人々は良く考えたなぁ。

中国は辺境の少数民族料理が面白い!?

「中国の少数民族の食文化を、どんどん日本に紹介したい」。
そんな思いで自分の店を持った松島さんが、今気になっているのは、広西省のチワン族、雲南省のタイ族、貴州省のミャオ族やプイ族など、中国南部の東南アジア各国との国境で暮らす人々の食文化。黒板の品書きにも中国の辺境で暮らす人々が連綿と受け継いできた料理名が居並びます。

プイ族のビーフジャーキーとじゃがいもの炒め(600円)
鶏もも肉広西チワン族仕立て(1,400円)
西安風羊のすいとん(1,500円)
苗(ミャオ)族 血餅の腸詰め揚げ(980円)

写真でお見せできなくてごめんなさい(汗)しかし、どれも実に特徴的で、未知の料理ばかり。中国という国の広さを図らずも実感させられます。…ところで、松島さんにとって、そんな中国の辺境の食文化のどんな部分が魅力と写るのでしょうか?

「地場の野菜や肉などの食材の味が濃かったり特徴的だったりして、とにかく主張するんです。そして、独自の調味料を使ったり、食材を保存するために発酵させたり乾燥させたりするなど、地域ごとに食文化が独自に(ガラパゴス的に)発展してきたので、とても奥が深いんです。勉強すればするほど面白いんですよね」

少数民族の食文化は“田舎料理”というイメージも色濃いためか、中国国内でもつい最近までそれほど注目されていなかったそうですが、都市部の急激な都市化が進む中、ここ数年で都市部の富裕層が“田舎”に注目し始めている、と松島さん。例えば、お客さんが訪れてから鶏を絞めて調理を始めるような、少数民族が田舎で営む「農家菜(ノンジャ−ツァイ)」の店へ出かけることが、トレンドにもなっているのだとか。

確かに、食べ物はその土地の暮らしぶりを色濃く反映します。そして、松島さんの料理を味わっていると、まだ知らない中国の素敵な暮らしぶりまで見えてくるような気もします。…そう、なんというか、テーブルの上で旅ができるこの感じ、ぜひとも味わっていただきたく!

とりあえず、取材時に注文したその他の料理もご紹介します。ご馳走さまでした〜!

◉前菜の盛り合わせ(1人前900円)※写真は2人前
しま海老と枝豆の紹興酒漬け、かぶの甘酢漬け、鮎のスモークと骨せんべい、野菜の梅肉ソース和え(この日はアスパラガスでした)、生タコの酸辣ソースなど全5品。

◉よだれ牛(2,200円)
四川省の名物料理「よだれ鶏」は蒸した鶏肉を辣油や花椒で和えた料理ですが、松島さんは鶏肉の代わりに黒毛和牛のイチボを炭火で加熱したタタキでアレンジ。唐辛子や花椒の他に生姜も利かせたその味わいは、なんとなく牛の生姜焼きっぽい!?

◉上海カニみそ入りくずし豆腐(1,600円)
上海蟹の味噌とタラバガニの他に、海老と椎茸を豆腐と一緒に炒めて、「魚湯(ユウタン)」と呼ばれる魚の頭だけでとった出汁と鶏の出汁とを合わせたスープで仕上げます。うま味濃厚!

※表示価格は全て税込みです。

PROFILE
小林 淳一

東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『Metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、食の分野で編集者として活躍、郷土料理や食材を求めて全国各地へ。青森県では観光国際戦略局の観光アドバイザーも務める。

イタリアの郷土の知恵の数々を味わいに、中目黒へ!

2016年中にデートで行きたい、良質ビストロ


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