UNSUNG NEW YORKERS

Vol.20 ニューヨークはプレシャスでかけがえのない都市


Feb 28th, 2017

Text_Yumiko Sakuma
Photo_Naoko Maeda

New York is a precious, irreplaceable city.
ニューヨークはプレシャスでかけがえのない都市

ラーキン・グリムは、もう何年も前に、アーティストの集団を通じて知り合ったシンガー・ソングライターだ。

ごくたまにライブに行く以外は、なかなか会うチャンスはないのだけれど、かつてレイプにあったこと、夫に浮気されたこと、シングルマザーになったこと、瞑想に救いを求めたことなどなど、いつもパーソナルな体験をソーシャル・メディアでオープンにシェアしているのを読みながら、いつもその勇気に感嘆する。

そんなラーキンが、この春、アルバムを発表する。それで連絡をもらって、関係性が復活した。
「自分が女性であること、母親であること、性暴力の被害にあったことを、自伝でない形、人のストーリーを通じて語る形で書いている。そして、ポップミュージックの世界には存在しない、ハッピー・エンドでないけれど普遍的なストーリーを」

ラーキンの書く曲は、美しくて繊細だ。
「いつも自分の曲は、トロイの木馬のようなものだと思ってる。表面的には美しいけれど、その奥には、ラディカルなフェミニズムのメッセージが入っている。でも美しい音があるから、人の意識に入っていきやすいのではないかって」

もともとは画家を目指していたから、大学ではアートを選考した。
「音楽はすべて独学で学んだの。絵を学んだことは、音楽家としての自分にはとても役立っている。レイヤーを重ねたり、テクスチャーを作ったり、という絵で学んだことが、作曲したり、演奏したりするのに役立っているから」

ラーキンの音楽には、ハープや琴のような弦楽器が多数使われている。
「自分は音楽のプロじゃないといつも思っている。いつもビギナーでありたいと。それにオリジナリティは大切にしたい。この世の中にはもうすでにたくさんの楽曲があるから、オリジナルなものを作るために、いつも苦心している」

ニューヨークに対する気持ちはいつも流動的だ。けれどドナルド・トランプが大統領になってから、ニューヨークの美しさを再確認したという。
「プレシャスで、かけがえのない存在。小さい島のまわりにできた都市だから、もろいところもある。でもそれも美しさのひとつ。こんなに小さなところに共存していて、お互いを受容することができて、助け合いの精神があるニューヨーカーのことをこんなに誇りに思ったことはない」


Navigator
佐久間 裕美子

ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。

Vol.01 魂に触ることができたらどんな感じがするだろう?

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