ELECTION AND STYLE

ボクらの知りたいアメリカ大統領選

第一回 アメリカ大統領選プロレス説


Sep 28th, 2016

Text_Ito-soken
Photo_Norio Kidera

いよいよクライマックスを迎えるアメリカ大統領選。大統領選は政策や政局だけでなく、アメリカのすべてのカルチャーを飲み込んで熱狂していきます。佐久間裕美子さんと速水健朗さんが語る、大統領選とカルチャーの話。ふたりの話は尽きることなく……、全三回でお届けします。

筋書きがあって、筋書きがない大統領選。

佐久間

速水さんは大統領選の情報は何で知るんですか?

速水

僕の場合、『CNNj』(※1)という日本語同時通訳のニュース番組を基本的に毎日観ています。あとはレギュラーのラジオ番組でもよくインタビューさせていただいている、ニュージャージー在住の冷泉彰彦さん(※2)の『Newsweek』の記事も定期的に見ています。ニューヨークに住んでいると、情報源は何ですか?

佐久間

ニュースはTwitterで見ていますね。3大ネットワーク(※3)とCNN(※4)、NPR(※5)、新聞はできるだけフォローしています。あと、最近ではビデオベースの新興メディアがたくさんあって、その中でもVox(※6)やA&J(※7)は見ていますね。バーニー・サンダース(※8)を推してきた若者はそういう新興メディアを見ていますね。あとFacebookで友達が何を上げているか、何にLikeしているか、何にコメントつけているかとかは結構見ているかな。

速水

これは僕もそうなんだけど、SNSで政治的に自分の性向が憶測されるようなものを共有しないじゃないですか。ネットで政治のことを積極的に発信するのは感覚としてない。

佐久間

私ですらちょっと言いづらくなって来ている。Facebookとかでも。やっぱりみんなリア充っぽいことばっかり上げているから(笑)。

速水

無意識のセルフプロデュースってありますよね。偏り云々以前に、政治に興味を持っているよアピールをしていると思われると、自分はそんな人間じゃありませんよって何ちゃってアピールをしたりして。まずそこなんだよね、日本人の政治観って。それはテレビを見ててもそう。日常の延長ではないところに政治があるという感覚。例えばテレビの選挙速報って、勝ち負けがはっきりするショーとして大好きなんだけど、番組づくりとしてはすごく真剣なもの、括弧つきの「報道」「ジャーナリズム」として装うじゃないですか。アメリカの場合は、もっとお祭り感がある。猪瀬直樹さんが「アメリカの選挙って4年に1回南北戦争やってるんだよ」って話をしていたけど、真剣なイデオロギー対決を祭りにすることである種のガス抜きになっている気がする。

佐久間

プロレスっぽいですよね。ある程度の筋書きがある説ありますよね。最近わかったことでは、民主党の執行部の内部ではヒラリーでいく予定だったみたいな話がそもそもあって、後に党の執行部がヒラリー推しを始めたら、「やっぱり決まってたんじゃん!」みたいな(笑)。それが今、サンダース支持者たちの反発を呼んでいる。

速水

アメリカのWWE(※9)は、エンターテイメントでありながら、実はとても政治的。人種や階級的な対立軸が、そのままリング上の対立になったりする。ヒスパニックが多い地域だとヒスパニック系のヒーローが活躍して、労働者階級が多い町だと労働者風のスターに応援の声が集まる。良いモノと悪モノが場所によって入れ替わってしまう。そして、悪役の典型が民主党の支持者なの(笑)。ちょっと前に民主党大統領候補だったジョン・エドワーズ(※10)のギミックとしか思えないキャラクターで出てきて、隣にいるのはVネックのセーターを着た弁護士で、スタバみたいなコーヒー飲んでいるっていうキャラ(笑)。都市型リベラルっぽいキャラクターは、WWEにおいては敵キャラになってしまう。それで、そういう奴らが出てくると、とにかくブーイングされる。でもその一方で、ブーイングされていたはずが、実は裏返しの人気でもあったりして、皆複雑な楽しみ方をしていたりもします。

佐久間

プロレス見てもらうと、アメリカ大統領選が少しは理解できるのかも。すごく面白い話ですね。

速水

これって大統領選っぽいなって気がするんだよね。やっぱり何かの流れがあって、それを読まなくてはいけなくて、それは長い期間でやるレースだからこそ成立している。

(※1)『CNNj』
24時間ニュースネットワークCNNインターナショナルの二カ国語放送(英語と日本語)。ケーブルテレビやスカパー!で視聴可能。

(※2)冷泉彰彦さん
1959年東京生まれ。ニュージャージー州在住の作家、ジャーナリスト。著書『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。

(※3)3大ネットワーク
「ABC」「CBS」「NBC」。アメリカのテレビ地上波の3大ネットワーク。

(※4)CNN
アメリカのケーブルテレビ向けの24時間ニュース専門チャンネル。

(※5)NPR
「National Public Radio」。アメリカの非営利・公共ラジオ放送。

(※6)Vox
アメリカのケーブルテレビ向けの24時間ニュース専門チャンネル。http://www.vox.com/

(※7)A&J
アメリカのニュース専門WEBサイト。http://ajplus.net/english/

(※8)バーニー・サンダース
1941年、ニューヨーク生まれ。シカゴ大学政治学部卒。大工、映画製作者、作家などの職歴がある。1981年バーモント州バーリントン市長、下院議員、上院議員を経て民主党より大統領選に出馬。

(※9)WWE
アメリカ最大のプロレス団体。世界中で興行を行うなど、日本でもファンが多い。

(※10)ジョン・エドワーズ
1953年、サウスカロライナ生まれ。2004年、ジョン・カリーの副大統領候補となる。2008年、大統領選に出馬表明したが、途中で撤退する。

一体、トランプ支持者はどこにいるのか。

速水

今回のトランプとヒラリーみたいに「どっちもダメだな」っていう感じを引きずりながら、情勢が次々と変わっていくのが面白いよね。アメリカ人は大統領選をお祭りとして楽しんでいるんだよね?

佐久間

私は結構楽しんでいますよ。でも、それは職業柄かも。トランプが勢い良く出てきた時に、「この国はどうなっちゃうんだ!」って感情的に言っていた人もいた。でももうひとつの見解として、実はあれはヒラリーを応援するための陰謀だったのではと言っている人もいて……。

速水

どこまでも裏読み可能なんだ(笑)。プロレスファンもそういうリテラシーを駆使してプロレスを楽しんでいるから近いかも。

佐久間

そうそう(笑)。トランプはずっと民主党やクリントンにも献金してきたから、実は“ヒラリー推し”という陰謀論。また別のグループがあるとすると、私のようにプロレスだと思って本当に面白がっている人達。でも、それはある時から「お前、そんなこと言っている間に本当にそうなっちゃうぞ。楽しんでいる場合じゃないぞ」みたいな流れになって、ニューヨークの人たちは真剣に「やばい、やばい」って騒いでたりする(笑)。

速水

それは都市型リベラル層の多いニューヨークだからってことが大きい?

佐久間

もちろんニューヨークだからってことはあるけど、今回の大統領選は十何人も候補がいて、共和党からエスタブリッシュでない人もたくさん出てきちゃったから。本来の共和党支持の人たちの中に、トランプ支持という人はあんまりいないと私は思っている。私が知る限りいない。そりゃあ、道で見たりくらいはしますけど。

速水

道で見る?(笑)。

佐久間

うん、道で(笑)。この間、ニューヨークの北部にあるハドソンって街で撮影をしていたらトランプのTシャツを着ている人が入ってきて、「わ!本当にいるんだ!」ってびっくりしたりとか(笑)。でもみんなが珍しいものを見るみたいに「見た?あのおじさん」ってひそひそしてたり。

速水

なるほど、佐久間さんの生活の中にはトランプ支持的な人って、全然入ってきてない?

佐久間

ニューヨークで会う人たちを見渡すと、私より年上の民主党支持の人はヒラリー派が多くて、若い子たちはやっぱり圧倒的にバーニー・サンダース。だから、本当にトランプって誰が支持しているんだろう?という感じなんですよね。密かにトランプ支持の人もいるかもしれないけれど。

速水

それでも数字で見ると拮抗しているのが面白いところ。住んでいる場所によって、はっきりと色が分かれるというのも、日本とは違う気がします。

共和党支持者と民主党支持者

速水

僕がアメリカの政治で面白いなと思うのは、共和党支持者と民主党支持者ではっきり分かれていて、しかもそれが住む場所や着る服、それこそビールの銘柄の選択なんかにも影響していたりするところ。

佐久間

車選びも(笑)。

速水

それは日本には絶対ないよね。フェアレディZに乗っているから、「俺、自民党。」ってことはまずない。でも、アメリカだとヨーロッパの小型車に乗っている人とピックアップトラックに乗っているみたいな車の選択は、政党選択とかなり結びついている。これって、当たり前のようで不思議。

佐久間

不思議ですよね。私はアメリカ1周を2回しているんですけど、北部の共和党支持者と南部の共和党支持者でもちょっと違うんですよ。

速水

アメリカだと青い州、赤い州みたいにくっきり分かれるけど、北部の大都市がある州は、基本的には民主党が強いよね。そこにいる共和党支持者もいると。

佐久間

いますね。内陸は結構いる。だから北部と言っても、右上は青いです。でも真ん中の上の方は結構赤くなる。例えばノースダコタ、サウスダコタ、モンタナとかは共和党が強い。あと、ワシントンとか。

速水

それは農村部を多く抱えているから?

佐久間

そうですね。環境、中絶、銃規制、そして、福祉。福祉は結構大きいですね。北部だと、民主党は環境規制をするからやってられんという農家の人とか結構いるし、南部だと貧しい黒人が多いから、民主党が政権をとると働かないで福祉で助けられる人達がのさばるみたいな考えを根強く持っている人がいたりして。

速水

それぞれ政党選びの理由は違うんだけど、生活とものすごく密着しているんだよね。でも、そんな中、南部の共和党支持者が福祉を広げない小さい政府を支持するのってすごく矛盾している。政府はなるべく自分たちに口を出すなよってことでしょ?

佐久間

そうそう。

速水

アメリカの基本的な保守って、家族や共同体を重視する=政府は市民社会に口を出すなって主張になるのが面白い。小さい政府を選ぶリバタリアニズム(※11)的な主張をする人はあまりいない。保守となると、伝統や家族を大事にするんだけど、放っておいてくれとは言わない。ちなみに、この前の参院選では、これまで自民党支持が強かった農村部で自民党が破れる現象があって、それは自民党が半世紀近く続けてきた減反政策の打ち切りという大きな選択をしたからという部分が大きい。日本の保守政党である自民党は、一貫して大きい政府路線できたのを、農政に関しては切り替えつつある。でも、あまりそれは話題になっていない。都市部に住んでいる人たちにとっては、僕も含め「自分の利益って何だろう?」「それを代表してくれる政党ってあるの?」って思っちゃうんですよ。

佐久間

そうですよね。

(※11)リバタリアニズム
個人的な自由、経済的な自由を重視し、最大限の自由を認めるべきとする政治主義。

(第二回に続く)


佐久間 裕美子

ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。

速水 健朗

1973年生まれ。メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など専門領域は多岐にわたる。TOKYO FM「速水健朗のクロノス・フライデー」のメインパーソナリティ。著書『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)、『1995年』(ちくま新書)など。

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