NEW YORKER

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Autumn / Winter 2018

Hiroshi Morioka

VOL.03

モダンにアップデートされた伝統
メンズツイードの変化球、ここに

ファションディレクター 森岡 弘さん × メンズニューヨーカーデザイナー 中島 陽一郎 対談

いつもと変わらないように見えるが、いや、何かがちょっとずつ違う。伝統を守りつつ、新しいスタイルを追求し続ける魅力とは?ファッションディレクター森岡氏とデザイナー中島が、この一着を通して語り合う。

VOL.03

“モケモケ”なのに、やわらかで心地いい?

── 2018-19AWで登場するツイードのセットアップですが、パンツまでツイードでそろうのは珍しいのでは?

森岡
なかなかないですね。ツイードとうたいつつも、このセットアップはハリスツイードのような重さや厚みがなく、フランネルのようなやわらかな印象です。だから上下合わせても着心地はいつものビジネススーツと変わらないはず。とても着やすいんじゃないかな。
中島
そうなんです。とはいえ、ツイードならではのこの“モケモケ”っとした毛羽立ち感もしっかりあるので。
森岡
これ、ビジネスシーンで着こなせたら、相当おしゃれにキマると思いますよ。ちなみにこの“モケモケ”っとした生地は何ですか?
中島
日本一の毛織物産地として知られる愛知県・尾州のメーカーさんのご協力で、もう10年ぐらい前に廃盤になっていたアルパカ混の糸を使用して作られた生地になります。今回、ブリティッシュツイードを今の気分に合わせてモダンにアップデートしたかったので、今までの“ザ・ツイード”というものとは違う、ちょっと変わったアルパカツイードに挑戦してみました。
森岡
では、この生地はニューヨーカーさんだけのものということですか?
中島
そうですね。
森岡
凄い!素材感はあるものの、ざらざらしていなくて、どちらかというと気持ちいい触り心地ですね。ちなみにおいくらですか?
中島
税抜きでジャケットが59,000円、パンツが25,000円になります。
森岡
ファッションをわかっている人からすると、全然高くない! 色もきれいですね。
中島
ありがとうございます。今回はオレンジグレーと、チャコールグレーの2色展開になります。
森岡
こちらのオレンジグレーのセットアップは、ブラウンの印象が強いですが、グレースーツのつもりで着てもコーディネイトが成立しますね。ブラウンのスーツってなかなか難しいカラーだと思いますが、これはいつも着ているグレースーツの感覚でコーディネイトすれば、逆に新鮮な着こなしになると思います。
中島
オレンジとグレーが入っているので、どちらかの色を拾っていただければコーディネイトもしやすいかなと。
森岡
ビジネス以外のシーンでも活躍しそうですよね。
中島
単品で、オフの日のジャケット、パンツと別々に着ていただくこともできますからね。でも単品で着る際、これをどう崩して着こなすかが肝になってくるかと…。
森岡
いやいや、これは凄く使い勝手のいいアイテムですよ。何にでも合うんじゃないですかね。
中島
パンツ丈をクロップド気味に短くしてスニーカーなどを合わせていただくのもいいのかな、なんて思ったり。
森岡
いいですね!ネイビーのジャケットなども、素材感さえ合わせればこのパンツに合うと思いますよ。

シルエット、ディテールも現代風にアップデート

── シルエットやディテールでのこだわりは?

中島
生地自体はツイードでブリティッシュなんですが、あえてシルエットはアメリカントラディショナルの基本となる3ツボタン段返りを現代風に新解釈したアンコンモデルになっています。
森岡
素材感だけでなく、形もモダンにアップデート。そこがポイントですね。
中島
はい。重めツイードで定番のくるみボタンです…となると凄くコアなターゲットの方にしか届かない気がして、そこは避けたかったんです。より多くの方に楽しんでいただきたいので。ボタンもクラシックなナットボタンに、あえて今っぽいグロッシー加工を施したものを使用しています。
森岡
ちなみにこの生地でベストはありますか?
中島
スリーピースとしてはご用意していないのですが、ベストを追加したいという方は、パターンオーダーでお作りすることが可能です。もっとパンツを太くしたいという場合も、パターンオーダーとしてお受けできますので。
森岡
僕、個人的にベストもオーダーして、スリーピースで着たいなぁ。アスコットタイはもちろん、マフラーの裾をベストの中に入れて胸もとにボリュームを作って着こなしたいですね。

自分の新しい引き出しを開けてみる、楽しさ

── ツイードをモダンにアップデートしたということですが、メンズファッションの流れ的にはどうですか?

森岡
ブリティッシュ人気はまだまだ続きそうです。カジュアルというよりはややドレッシーなブリティッシュ。そしてそこにさりげなく“抜け感”を加えたスタイルが今年風ですね。このセットアップなら、品格を感じさせつつ、ツイードの表情がちょっとだけ“脱力感”を添えてくれるので、まさに今の時代の流れにぴったりな一着といえます。「あ、この人、センスいい人だな」という見え方をする一着になると思います。
中島
むしろ頑張らないで、さらっと着ていただきたいですね。ただ、ツイードはもっさりとしたイメージにも見えがちなので、最初からコーディネイトが難しいと思われる方も多いんですよね。
森岡
このセットアップは、絶対もっさりとした感じには見えないですよ。無理矢理遊びを加える必要もなく、余計な変化をつけないで普通にさらっと着るだけでいいと思います。例えば、こちらのチャコールグレーのジャケットの下に、ボルドーカラーのタートルネックニットなんかを合わせたら格好いいですよね。パリのジェントルマンっぽい着こなしが完成します。このグレー、普通のチャコールグレーとはちょっと違いますよね?
中島
そうですね。黒とグレーを掛け合わせてかなり濃いめに仕上がっていると思います。
森岡
なるほど。こちらのチャコールグレーの方がおそらく使い勝手はいいかもしれません。オレンジグレーの方をブラウンと捉えると、ブラウンというカラーはドレスコード上はビジネスカラーではないですからね。ブラウンは、どちらかというとオフの日の色で、ビジネスといえばやはりネイビーかグレーかになりますから。ただこういう時代ですから、ドレスコードのグレーゾーンをどれだけ遊べるかがその人のセンスになってきます。ブラウン系でもこれぐらい落ち着きのある色であれば、「この人は服がわかってるな」という見え方もすると思うので、個人的にはぜひ着ていただきたいですね。冬でもカジュアルな日を作ろうという動きもありますので、デスクワークの日や外出のない日などに、こういう色目をチャンレンジされると自分の引き出しがもうひとつ増やせて素敵だと思います。

いつもと何か違う?」そういわれたら、しめたもの

中島
このブラウン系のセットアップも、朝なのか、夕方なのか、時間帯によって色の見え方が変わってくると思うんです。ミディアムグレーとオレンジで作っているので、最初に森岡さんが「グレーのスーツのつもりで」とおっしゃったように、合わせ方や時間帯によってグレーに見えることもあるのでは、と。
森岡
そうですね。いっそのことグレーのネクタイをチョイスしてVゾーンをグレーベースでまとめるのもいいかもしれないですね。よく見ると、両サイドのパッチポケットもスポーティで気が利いていますね。
中島
これで切りポケットにしてしまうとかなりカッチリしてしまうので、あえてパッチポケットにしてみました。
森岡
胸までパッチポケットにしていないので、そういう意味ではビジネスにも使いやすい。いやぁ、ギリギリのところを狙ってきましたね。これは確信犯です!(笑)
中島
いやいや(笑)。スリーパッチポケットにしちゃうと一気にカジュアルな方向に振れちゃうので、その辺りはこだわりました。アップデートとはいっても、“ここまでだよ”“これ以上はダメだよ”というギリギリのラインは守りたいので。
森岡
「トラッドは変わらない」そういう考えも悪くはないと思いますが、一方で服の楽しみやスタイルづくりというのは「変わる」ことも否定できない時代です。変わることは、自分の可能性を広げることでもありますし。トラッドのよさって“人に嫌な思いをさせない服”であることだと思うんですよね。嫌な思いをさせないまま、その中で変わることができるというのが一番いいことなんじゃないかなと。軸は決してブレないまま、スタイルをブラッシュアップさせていく。そこが一番重要だと思います。いつも周囲にいる人から「あれ?何かわからないけど、いつもと違うんじゃない?」そういわれたら、しめたものですね。
中島
本当にそう思います。僕が提案したいのも、軸はしっかり踏襲しつつの“アップデートされた伝統”です。それを皆さんにも楽しんでいただきたい。
森岡
古いものを頑なに守るだけでは時代のニーズと離れていってダメですよね。新しくするからこそ守っていけるものがある。そこは本当に必要な部分だと思います。それが素材だったり、ディテールだったり、シルエットだったり、もしくはスタイリングだったり。今までと似ているけれどどこか、何かが違う。それを探っていくことが大切だし、着る側の楽しみにもつながっていくんだと思います。

Profile

Hiroshi Morioka

森岡 弘(もりおか ひろし)さん

男性ファッション誌『メンズクラブ』にてエディターとして活躍後、独立。1996年にクリエイティブオフィス「株式会社グローブ」を設立し、ファッションを中心に活動の幅を広げる。現在は俳優やアーティスト、文化人などのスタイリングを行なう他、イベントやショップのコスチューム、企業のユニフォームの制作などにも携わっている。